- 作者:渡部 昇一
- メディア: 文庫
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2016年4月25日 読売新聞「思潮 論壇誌 4月
国力低下の日本『前を向いて』」
ハイテク、観光、外交リスク恐れず
東日本大震災から5年という節目を経て約1ヶ月、熊本地震が発生した。地震前に編集された今月の各誌からは、日本は震災を乗り越え、国力を強める時だとする思潮が読み取れただけに、再び試練を課せられたとの思いは否めない。それでも、そうした『前を向く』姿勢を紹介しておくことは、無駄ではないだろう。(文化部 植田滋)
日本の『長期衰退』はそれ自体がすでに長期にわたって論点となっている。『中央公論』は『ニッポンの実力』と題する特集を組み、改めて日本の国際競争力低下などをデータで示し、わが国の現状を考察。その中で、政治学者の北岡伸一氏『鎖国思考が招く国力の低下』は、そもそも国力とは何かを確認し、日本の進むべき道を提言する。
北岡氏は、国力を『何らかの形でこちらの意思を相手に強要する、あるいはこちらの働き掛けがなければそうしなかったであろう行動を相手に取らせる力』と定義。国力を形成する要素として、地理、天然資源、工業力、軍備、人口、国民性、政府のクオリティー、外交のクオリティーの8つを挙げ、これらに関し、日本には『特に有利なものがない』ことを指摘する。
例えば国民性。日本の国民性に対する諸外国の好感度は高いものの、『好感度と影響力は別問題』と述べ、外国人による日本称賛を冷静に受け止める。その上で『重要なのは好感度をさらに尊敬と信頼に高めていくこと』だと説き、硬直した『護憲』や『伝統』に寄りかかった『鎖国思考』をやめ、世界から『日本が必要不可欠な国だと思われることが大事』と訴える。
いり具体的な提案のある。英国生まれの文化財修復会社社長デービッド・アトキンソン氏は『「おもてなし」で客は呼べない』で、日本の観光産業の高い潜在力を強調。2014年の日本の国際観光客到着数は世界22位だったが、この実績は『潜在能力を大きく下回って』おり、20年には5,600万人、30年には8,200万人の観光客を呼び込むことができると訴える。たあ、日本の『おもてなし』を自賛する風潮には疑問を呈し、大半の観光客にとって『おもてなし』は旅行先を決める決定要因ではないと指摘。なすべきは、普通のビジネスと同様、観光客をきちんと区分し、分析して対策を考え、それぞれに向けて商品を提供していくことだという。
一方、『SAPIO』も日本の復活を論じる『2050年「日本は世界一の超大国になる」のか』を特集。かつて『日本たたき』で知られた米国の日本研究者クライド・プレストウィッツ氏が、本国で出版した『JAPAN RESTORED(日本復興)』で、日本が大変革を遂げ、2050年に『新型超大国』として世界の先頭に立つと仮想的に予測したことを受け、その実現性を問うている。
実際、インタビューでプレストウッツ氏は、日本が活力をすっかり失っていることに驚いているが、それでも『ファンタスティックな国』になるには、和食やアニメを売り込むといったことよりも、外交や安全保障で国際的な役割を果たすべきだと提言。最先端を行く高度技術、マイクロバイオロジー(微生物学)、ナノテクノロジーを発展させることなども勧めている。
ほかにも日本を前向きに捉える論考は見られる。米国の非営利組織研究員デヴィン・ステュワート氏は、『日本の新しいビジネス文化』(『フォーリン・アフェアーズ・リポート』)で、日本のビジネス文化は失敗を恐れ、起業家精神に乏しいと指摘する一方、近年はリスクを恐れずに起業する世代が誕生してきたことを報告している。
今は地震の被害者支援や復旧に全力を傾注すべき時だろう。ただ、国力を強化し、精神的に『折れない』よう支えを太くしておくことも必要と思われる」
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