・ ・ ・
関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
・ ・ {東山道・美濃国・百姓の次男・栗山正博}・
2022年11月3日 MicrosoftNews プレジデントオンライン「なぜ「女性はリーダーに向かない」と言われるのか…それは日本社会のリーダー像が古すぎるからである
浜田 敬子
© PRESIDENT Online ※写真はイメージです
なぜ「女性はリーダーに向かない」と言われるのか。ジャーナリストの浜田敬子さんは「女性は男性よりも自己評価が低く、社内政治力も弱い傾向がある。これまではそれが弱みとされてきたが、今の時代にはむしろそうした人のほうがリーダーに向いている」という――。
※本稿は、浜田敬子『男性中心企業の終焉』(文春新書)の一部を再編集したものです。
アメとムチを使い分ける「交換型リーダー」
スイスのビジネススクールIMDのギンカ・トーゲル教授は、著書『女性が管理職になったら読む本』の中で、求められるリーダー像が大きく変わってきていると指摘している。
長年にわたるリーダーシップに関する研究でリーダーには、①交換型リーダーシップと②変革型リーダーシップがあることがわかっている。
「交換型リーダーシップ」はアメとムチを使い分けてリーダーが意図する方向へ人々の行動を仕向けようとする。リーダーから与えられる報酬とメンバーの服従が交換されることで成り立つ関係で、例えば「このノルマを達成したら、ボーナスを上げる」など人々の損得に訴える。一方の「変革型リーダーシップ」は人々の内発的な動機付けを引き出し、内面にある価値観を変革させる。
令和の組織には「変革型リーダー」が向いている
トーゲル教授は「交換型」はリーダーが自分の時間の多くを監視やコントロールに割かなければならないため無駄が多く、非効率であるだけでなく、リーダーの指示が適切でないと組織のパフォーマンスが落ちるリスクを指摘している。
これに対して、「変革型」ではリーダーが予期していなかった成果が生まれることがあるという。
また階層構造でできている組織を「権力」によって管理していた時代には「交換型」が機能していたが、組織がフラット化し、ヒエラルキーよりネットワーク群のようになった今は権力や権威で組織は動かせないというのだ。
現代のようにテクノロジーの進化のスピードが激しく、10年前の成功モデルが通用しない時代には、リーダーの成功体験がかえって変化を阻害する。5年先ですら、どんな時代になるのか予想するのが難しい時代には、特定のリーダーからの価値の押し付けがリスクになることもある。そうなると、その時々のメンバーの内発的な動機を引き出した方が変化には柔軟に対応できる。
では、「変革型」に必要な資質とは何か。
女性の方が「他者への共感」に自覚的
トーゲル教授はセミナーや講演などで参加者から「自分はどんな人間か」を一言で表現してもらっているが、その言葉を男女別に見ると非常に興味深い。女性からは「人の役に立つ」「手助けを惜しまない」「チームワークを重視する」「優しい」「協調的な」「面倒見が良い」というキーワードが挙がる一方、男性からは「自信がある」「野心的な」「自立している」「失敗を恐れない」「実行力がある」「積極的な」という言葉が多い。
これまで理想のリーダー像に必要だった要素は「自立」「積極的」「実行力」だったかもしれない。だがトーゲル教授は、「変革型」においてもっとも重要なことは「メンバーを尊重することだ」という。そして「男性よりも女性の方が、変革型リーダーシップの資質がある」と分析している。
確かに男女別の自己分析の結果を見ると、女性の方が「他者への共感」を自分の特性だと考えている人が多い。さらに「変革型」を構成するのは4つの要素、①信頼②モチベーション③刺激④コーチングだが、様々な研究からこれら全てにおいて、女性の方が得意であることもわかっている。
日本の企業で女性の管理職や役員が増えない一因は、時代が求めるリーダー像が変わってきていることに気づいていない経営層が多いこともある。もしくは気づいていたとしても、そのことを認めてしまうと、これまで男性たち自身が築いてきた「理想のリーダー像」が崩れてしまうことを恐れているのかもしれない。
管理職でないと味わえない喜び
私はAERA編集部時代に副編集長を9年も務めた。その間に出産して10カ月の育休も取得し、仕事と子育ての両立にも四苦八苦したが、それでもこの副編集長というポジションと仕事内容が気に入っていた。ある程度、自身の裁量で仕事が回せ、何人もの編集部員と組んでスピード感を持って企画をアウトプットしていける醍醐味は、一人の記者として仕事をしている時以上の達成感ややりがいがあった。
編集部員一人ひとりの特性を考えて、担当してもらう企画を考え、その企画で編集部員が成果をあげて「ひと皮剥けた」時の喜びは管理職でないと味わえないものだった。後輩女性たちが管理職を躊躇する時に、この「管理職でしか味わえないやりがいと楽しさ」を伝えるようにもしてきた。
なぜ「二番手でいい」と感じていたのか
一方で、編集長に次ぐこの「二番手」の居心地の良さも感じていた。副編集長は他企業で言えば課長級だが、雑誌の部数、広告の売り上げ、予算の管理、人の採用から、記事の間違いなどトラブルのリスク管理まで最終的に雑誌の全責任を背負っているのは編集長(部長級)である。私自身は副編集長として裁量権は持ちつつも、最終的に全責任を背負うポジションに自分がなれるとは思っていなかった。
2014年に編集長になった後、なぜずっと「二番手でいい」と感じていたのか、何度も考えた。
私は編集部員時代から数えると7人の編集長と一緒に働いたが、全て男性だった(私が2014年に編集長になるまで、AERAは創刊以来25年間、ずっと編集長は男性が務めた)ので、編集長のモデルとして、男性の特性が刷り込まれていたと思う。
先のトーゲル教授が挙げた男性・女性の自己分析の通り、私から見えていた男性の編集長は「トップダウン」「指示命令型」が多く、それが決断力、実行力に繋がるものと見え、「私にはあんなリーダーシップは無理だな」と感じていた。まさに男性リーダー像の呪縛にとらわれ、それが自分の中に「内なる壁」を作っていたのだ。
女性リーダーが男性をマネしてもうまくいかない
女性たちが管理職やリーダーを躊躇する要因の一つが「ロールモデル不在」であることはよく知られている。周囲に男性のリーダーしかいない場合、また女性のリーダーがいたとしても従来の「男性型」をなぞったような女性だと、「とても自分には無理だ」と思ってしまう気持ちは、経験上よくわかる。
だが、編集長になって気づいたことは、リーダーシップのスタイルは自分で創っていくしかないということだ。男性のマネをして急にトップダウン型になれるはずもない。自身の強みを生かす、それ以上に自分が今できる形でやるしかないと開き直った。
もしあの時、「リーダーにはいろいろなタイプがあっていい」「むしろ自分の特性がリーダーとして求められている」と言われていたら……。もっと自信を持って、早くから編集長をやってみたいと思えたのではないかと考えている。
「自分に自信がない」はむしろ強みになる
さらに女性の中の「内なる壁」としてよく挙げられるのが、「自信過小」という問題だ。
男女の昇進意欲の差を生み出す要因の一つとしても、この「自己評価の差」が挙げられる。2019年の全米経済研究所の調査によると、女性は男性より自分のパフォーマンスを15%ほど低く評価する傾向にあり、この自己評価の低さがリーダーを躊躇する背景にあると考えられている。
これらは「インポスター症候群」と言われ、特に女性たちは周囲からは高く評価されていても、「自分は評価に値しない」「自分にはそういう能力はない」と自身を過少に評価する傾向が強いと言われている。
この女性たちの「自信過小問題」はこれまでネガティブに捉えられてきた。そもそも自信過小の背景にも、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)からくる経験や機会のロスの積み重ねなど構造的な問題もあるのだが、しかし、この「自信のなさ」「自己肯定感の低さ」が今の時代のリーダーには「強み」になるという指摘もある。
育児休業期間をマネジメント能力開発の機会にする「育休プチMBA」を主宰する小早川優子さんは、著書『なぜ自信がない人ほど、いいリーダーになれるのか』で、むしろ今、自信のなさは「内省できる、周囲に心配りができる」という面でプラスに働く「強み」になると指摘している。
自分自身がリーダーとしてどうだったのか客観的に見るのは難しいが、私自身はAERA時代もビジネスインサイダージャパン時代も、編集長として何人かの女性たちを副編集長に登用してきた。その経験から実感しているのが、「女性もリーダーは十分できる、むしろ向いている人が多い」ということだ。
必要なのはリーダー像のアップデート
女性には(全員ではないが)、比較的「他者を尊重し」「丁寧にコミュニケーションをとる」人が多く、それらが今のリーダーとして求められる資質だということはこれまでも述べてきた。今、1on1と言われる部下との対話を仕組み化して重要視する企業も増える中、女性リーダーの中には仕組み化の前から、丁寧な対話を心がけてきた人が多いと感じる。
それは「一方的に指示する」自信がないからこそ、何度も話し、相手の言い分も聞き、納得してもらった上で仕事をしてもらうことが日常になっていたとも言える。
今の若い世代は「なんのためにこの仕事をするのか」納得して働きたいと思っている。
そうした若い世代にやりがいを持って働いてもらうためにも、むしろ求められるのは企業サイド、経営層や上司たちが思い込んでいるリーダー像のアップデートなのではないだろうか。それが変わらなければ、次の管理職の候補者に女性たちを推薦しようとは思わないだろう。
働く女性たちの「弱み」は社内政治力
入社10年以内に9割の女性が営業現場を離れてしまうという各社の課題を解決するための「エイジョカレッジ」を運営するチェンジウェーブ代表の佐々木裕子さんは、企業で働く女性たちの「弱み」は社内ネットワークと情報収集力の貧弱さだと指摘する。ネットワークがあれば、当然情報も入ってくるので、この2つは相関関係がある。
私自身もAERA時代に、この2つの力不足を痛感していた。なぜ男性たちは自分のやりたい企画を通し、希望の部署に移れているのか。もちろん男性全員ではないが、よりチャンスに恵まれている男性たちを観察していると、社内にスポンサーと呼ばれる、自分を引き上げてくれる存在がいたり、上司や先輩・同期などと頻繁に飲みに行くなどして、情報交換をしていたりした。
管理職になったばかりのころ、どう振る舞っていいかわからなかった私は、取材などで知り合った社外の女性役員や管理職の人たちに教えを請いに行った。その時ある製薬会社の女性役員からは「政治力を身につけなさい」と言われた。
会議でいきなり意見を言う前に情報を収集しておくこと。自分のやりたい企画を通すためには、社内のキーパーソンに事前に説明して理解を求めておくこと。いわゆる「根回し」と言われるもので、女性はこうした行動を「狡い」「正式なルートではない」として嫌いがちだ。だが、その女性役員はこう話した。
「正論を言って、正式なルートだけで通そうとしても、なかなか会社では通らない。ゴールがその企画やプロジェクトを実行することなら、そのためにどうすべきか考えるのは戦略です」
女性リーダーがぶつかる「正論の壁」
当時の私は男性社会のルールにおもねるようにも思えて、すんなり理解した訳ではなかった。しかし、何度も正面突破を試みて玉砕するうちに、最初に誰に説明しておくべきか、男性の経営層や管理職を納得させるには自分のやりたいことだけを主張するのでなく、会社側に立って考え、会社がゴーサインを出しやすいようなロジックを組み立てることを学んだ。
女性が管理職や経営層になってぶつかる壁はいくつもあるが、その一つにこの「正攻法の壁」「正論の壁」があると思う。よく女性リーダーを育成する社内研修などでは「経営者視点に立った」会社への提案というプログラムが盛り込まれているが、そこでは一見自分が「正しい」と思っていることも、視点を変えてみれば「部分最適」が「全体最適」とは限らないことも理解できるようになる。
だが最近私は、むしろ自身に「足りない」「弱み」だと思っていたことが、実は「強み」になっているのではないかと考えるようになった。
女性を支える「社外メンター」と「シゴトモ」
社内になかなか相談相手がいなかった時代、取材先などで知り合った社外の女性たちにアドバイスを求めた。そういう人を私は「社外メンター」と呼び、AERAでも女性に必要なのは社外メンター的存在であるという特集も組んだ。
さらに子育てとの両立で悩んだり、日々の仕事で心が折れそうになったりしたときに気持ちを共有してきたのは、ママ友や同時期に同じようなポジションで働いている社外の女性管理職だった。こうした存在を「シゴトモ」と呼び、彼女たちと悩みや、時には仕事のやりがいなどを本音で話すことで、ここまで働き続けてこられた。
女性が働き続けるには、この社外メンターとシゴトモを持つことがとても大事だ。この2つの存在は単に悩みを聞いてくれるだけではない。話しているうちに企画のアイデアに結びついたり、取材先などを紹介してもらったりしたこともある。
ビジネスインサイダージャパンの立ち上げ期に統括編集長を務めることになったのも、もともと友人だった女性経営者が私に声をかけてくれたからだし、採用で困っている時にはシゴトモたちから「こんな優秀な人が転職を考えている」と教えてもらったこともあれば、クライアントとなる営業先を紹介してもらったこともある。
「男性の強み」が弊害になっているのではないか
社内ネットワークという資産がなかったからこそ、外にネットワークを求めるしかなかった訳だが、それは私の視野を広げ、さらに新たな人との繋がりにもなった。
男性は社内に強いネットワークを持ち、これまではそれが強みになっていたが、むしろ今それが弊害になっているのではないか。同じような発想、同じような仕事をしてきた仲間とばかり付き合っていると、発想は内向きになってしまう。
自信がないことが今の時代のリーダーにむしろポジティブな影響を与えるのと同様に、女性たちが自分たちの「弱み」だと思っていたことが、むしろ強みになる時代になっている。
・ ・ ・