🎑107)─2─目に見えない衰退を続けている日本アニメ業界の原因は深刻な原画マン不足。~No.225 

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 日本のアニメ業界は、人材不足と低賃金労働で深刻なブラック産業と化して衰退し始めている。
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 中国依存8割で、中国が閉じたら日本のTVアニメは作れない。
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 リベラル左派やエセ保守のおじさん・おばさん達には、子供達が夢中になる日本のアニメ・マンガを低俗として毛嫌いし見捨てる。
 おじさん・おばさん達が、子供達に読んで貰いたいのは、西洋の国際的児童文学であって、日本文化のアニメ・マンガではなく戦前の民族的児童文学でもなかった。
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 2023年9月24日 MicrosoftStartニュース アスキー「アニメの放送延期が続出した原因は「海外依存8割の動仕」にあるが解決は困難
 まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII によるストーリー
■アニメの制作現場で何が起きていたのか?
 今回は、2022年末から2023年春にかけて多発したアニメ放送・配信の延期について、2023年2月に生配信したインタビューを再構成してお届けいたします。当時、アニメ制作の現場では、何が起きていたのでしょうか?

 まつもと 今回はアニメスタジオ「TRIGGER」で取締役を務める舛本和也さんに、アニメ制作のリアルな現状を語っていただきます。舛本さん、よろしくお願いいたします。
 舛本 どうぞよろしくお願いします。
 まつもと さっそく今日のお品書きを見ていきたいと思います。1つ目のコーナー名は……ごめんなさい。「休止」と書いていますが「延期」が正しいですね。2022年末、アニメの放送や配信の延期が相次ぎました。アニメの制作現場で何が起きていたのか探っていきたいと思います。
 2つ目は、アニメの制作に変化が訪れているなかで、スケジュール管理や素材の受け渡しで非常に重要な役割を果たしてきた「制作」というお仕事はデジタル化でどう変わるのか?
 そして3つ目では、これからアニメ業界を目指す方々を含めて、どのようなスキルを持つ人材が求められているのか? ……これらについて、舛本さんにおうかがしていきたいと思います。
 TRIGGER取締役・舛本和也さん。『プロメア』『SSSS.GRIDMAN』『キルラキル』などのアニメーションプロデューサーを務める。同社がアニメーション制作を担当した『サイバーパンク エッジランナーズ』はクランチロール・アニメ・アワード2023にて最優秀賞 アニメ・オブ・ザ・イヤーを獲得
 © アスキー 提供
 まつもと では、さっそく1つ目のコーナーにいきたいと思います。「休止」と書いちゃいましたが、正しくは延期ですよね。ただ、途中まで放送して、「このクールは諦めました。次のクールに回します」という作品もあります。
 表にまとめてみました。こんなにあるんだ、と。これでもまだ一部のはずですね。個別の作品については舛本さんに触れていただくと。
 2022年~2023年前半に延期したアニメ作品(一部)
 © アスキー 提供
 舛本 (笑)
 まつもと そして……舛本さんのお顔の下にあるお名前の漢字が間違っていることにいま気がつきました。大変失礼しました。正しくは「“きへん”がない“舛”」です。
 舛本 あ、ホントだ。はーい。
■コロナ禍で海外発注の「動画・仕上げ」が停止
 まつもと 特筆すべきは、ほぼ同じタイミングで「延期します」とアナウンスされたこと。また、再開時期も似通っています。この背景には何があるのか? すでにわかっていらっしゃる方もいるかもしれませんが、中国の影響が結構大きいと思います。
 舛本 そうですね。
 まつもと 現場で何が起こったのか舛本さんからお話いただければと思います。その際、ヒントになる図もあるので、そちらも出します。
 舛本 まず、図のタイトルすべてが同じ理由ではないという前提はありつつも……今回に関しては大きな理由が1つあります。
 アニメ制作の工程には、中割りと言われるなめらかな動きを蓄積する「動画」、そして着彩をするための「仕上げ」という部署があります。テレビシリーズの場合、動画と仕上げのおよそ90%を海外の方々にご協力いただいています。そんな背景があるなかで、新型コロナウイルスの感染拡大が中国で起きました。
 まつもと これはアニメ制作の進行を示した図です。日本動画協会の公式サイトから無料でPDFがダウンロードできます。
 日本動画協会の公式サイトから無料DL可能
 © アスキー 提供
 原画と原画のあいだの中割り、その集合体を動画と言いますが、この中割りを中国はじめ海外に発注しています。この図では、左から2番目のラインにある「海外動仕出し」がそれにあたります。動仕とは、動画・仕上げの略です。つまり、動画と仕上げをワンパッケージで中国をはじめとする海外に発注しているわけです。
 中国はゼロコロナ政策を2022年末にいきなり終了したことで、感染者が急増して会社そのものが動けないという状態が、アニメ業界でも相次ぎました。
 結果、「海外動仕出し」の部分でアニメ制作が止まってしまったと。
 舛本 そうですね。特に動画・仕上げを担当している会社の地区全体が厳しい状況にあったようです。生産性が担保できず、各作品が影響を受けたというのが大きいところですかね。まあこれは突発的というか、仕方がないというか、どうしようもなかったと思います。
 まつもと そこで最初の表を見直してみると、だいたい第7~9話の3話分ほどを再放送でつなぐかたちになっています。コロナ禍で動画・仕上げの現場が止まったのが2022年の年末から。そしてその後に春節旧正月)が続きます。当然、春節は会社もお休みですから、仕事は進みません。
 舛本 春節自体は1週間から10日くらい。ただ、その後も影響が続きます。溜まっていたものが一気に流れ出すみたいな状況になって、順番待ちの状況が起きます。仕事が止まっている期間自体は10日間程度なのですが、アニメ業界にはだいたい1ヵ月くらい影響が出るという感じです。
 まつもと 結果として、2022年末の新型コロナの感染急拡大とその後の春節の影響が、我々の目の前に現われ……そして2023年2月になってようやく収まってきた、という理解でよろしいでしょうか?
 舛本 そうですね。海外の動仕作業についてはそういう状況だと言えると思います。
■「動画・仕上げ」は海外に約9割依存
■中国が閉じたら日本のTVアニメは作れない
 まつもと わかりました。ちなみにTRIGGERさんの作品に影響はありましたか? たとえば時期的に映画『グリッドマン ユニバース』など。
 舛本 影響がなかったわけではありませんが、弊社内に15名ほどの動画スタッフさんがいらっしゃいまして、そういった方たちの踏ん張りでなんとかなったという側面が大きかったですね。
 まつもと つまり、中国に動画を出していたけれども、それはいったん国内で引き上げ、仕上げも国内の協力会社に依頼する、と。
 舛本 そうですね。
 まつもと 動画スタッフが社内にいることの意味は大きいと思いますし、そこから直接国内の仕上げの会社に声をかけられる、つまりそのラインを押さえることができる関係がある、というところもまた結構大きいですよね。
 舛本 今回は本当にありがたかったなぁと思っています。
 ©円谷プロ ©2023 TRIGGER・雨宮哲/「劇場版グリッドマンユニバース」製作委員会
 © アスキー 提供
 まつもと 一方、そうした対応がとれる会社ばかりではありません。現在、動画・仕上げ作業を中国に依存する割合はどのくらいなのでしょうか?
 舛本 正確な数字が出ているわけではないので、あくまで僕の肌感覚という言い方しかできませんが、だいたいお仕事の80%、キツい作品ですと90%以上を海外の動画・仕上げさんにお願いしていることが普通じゃないかなと思います。
 まつもと こういう話をするときって食料自給率をイメージするのですが……もう海外なしでは成立しない。絵コンテ・レイアウト・原画といった「画像」の状態から、「映像」に変わるタイミングの作業が、じつは8~9割までを海外に依存している。
 『日本のアニメ、これから大丈夫なのか?』と思ってしまうのですけれど、たとえば円安の進行や国家同士の関係が変化して、もし中国が「もう受けられません」となったら、日本のTVアニメってどうなっちゃうんでしょうね?
 舛本 あくまでこれも僕の私見という言い方にはなりますけれども、放送ができない、作れないという状況に容易になっちゃうかなと思いますね。
 まつもと これ、ヤバいですね?
 舛本 まあ、ヤバいですね。
 まつもと 蛇口を握られているというか。「もう閉めますよ」と言われたら出てこなくなっちゃう。
■解決策は国内アニメーターを1万人増やすこと!?
 まつもと これは解決できるのでしょうか?
 舛本 アニメ業界全体の大きな流れがあるので、たぶん解決という言葉で探れる案って理想論でしかないのです。だから現実的な改善に至るには、ちょっと複合的に物事を考えなければいけないという前提があります。
 そのうえで、先ほどのまつもとさんがおっしゃったご質問だけに答えると、できないでしょう、という言い方になっちゃいますかね(笑)
 まつもと まずシンプルに考えると、地方で動画・仕上げを専門にやっていらっしゃる会社、数は少ないですけどありますよね。
 舛本 はい。
 まつもと では、国内に生産拠点を構築する――つまり、動画・仕上げに対応してくれる場所と人を増やす、ということは難しいですか?
 舛本 各社が採用枠というかたちで環境を用意して人を呼び、指導が行き渡れば、現実的には可能なのですが。
 まつもと 問題は育成ですよね。
 舛本 はい。現状ではおそらく人数が足りないでしょう。日本ですべて動仕を引き受けるためには、たぶんアニメーターを5000人から1万人育成しないと。
 まつもと 専門学校で動画の勉強をする学生さんは毎年いて即戦力になりますよね。人材の輩出自体はそれなりにされているかなと思うのですが。
 舛本 いや、もう絶対的に数が足りないですね。おそらく年間で500人から1000人いかないくらいじゃないですかね、アニメーターとして業界に入られる方というのは。
 まつもと 志望者を増やしつつ育成に力を入れることは可能でしょうか?
 舛本 それはもちろん。この問題はアニメ業界全体で考えようとすると答えが出ないんです。たぶん、各社が独自の解決案を出して実行に移していく……を繰り返していくしかないだろう、と思っています。
 まつもと 会社単位、つまりTRIGGERさんのように社内で動画スタッフの育成を図るということですね。私が取材した例ですと、P.A.WORKSさんは育成機関を作って内製できる部分を増やしています。こういった施策を各社で取り組んでいかないと、中国をはじめとした海外依存を下げることはできないと。
 舛本 そうですね。
 「AI中割」は人材育成の代替策になるか?
 まつもと 一方、AI技術による「動画の中割りの自動生成」も一部で実施されています。たとえばNetflixの「配信作品を学習させて背景を自動生成」する取り組みですね。こういった自動化は、海外依存率を下げつつ、人手不足を解消する解決策の方向性の1つになり得ますか?
 舛本 はい、確実になり得ると思います。そもそも今は「仕事の供給量が多い状態を日本国内で消費できていない」という状況が慢性的に起きているので、自動生成技術が本当に使えるものになるようであれば、その分を国内対応とすることで、結果的に生産性が高まる可能性もあると思います。
 まつもと 実際、現場で中割りの自動生成を試されたことはありますか?
 舛本 はい。これまでにもいろいろなソフトをトライアルしていますが、通常営業に乗せられる技術かというと……。
 まつもと まだ解決しないといけない点は多い、と。舛本さんは特にどのあたりが弱点・課題だと感じていますか?
 舛本 日本国内ですと、AIの研究者がまず足りません。そして研究するための材料も不足しています。
 まつもと AIに学習させるための素材。
 舛本 完成した映像はいくらでもありますけれど、途中工程の素材は世に出るものではありませんから、学習させようとしても研究素材が足りないでしょう。
 まつもと じつは、TRIGGERさんは国立情報学研究所と提携して、研究目的であればTRIGGERさんが制作したアニメの素材データ――『リトルウィッチアカデミア』の絵コンテやレイアウト、原画など――を利用できるという取り組みも始めていらっしゃいますよね。
 AIにそういった素材を学習させるといったことも始まっていますか?
 舛本 そうですね。研究は業界の一部で頻繁にされているみたいです。
 まつもと しかし動画の中割りは、まず読み解ける能力がないと……。私はホントにAIが学習できるのかな? と思っちゃったり。
 舛本 いやー、こればっかりは僕も想像がついていないところなのでなんとも申し上げられないですけれど、確かにアニメは3Dに比べると動き方が独特というか、マンガの文化という言い方が正しいかどうかわかりませんが、誇張した表現になっていますので。
 アニメ『リトルウィッチアカデミア』の素材は、AI中割も含む学術的研究の促進に使用されている(画像はニュースリリースより)
 © アスキー 提供
 まつもと デフォルメされているのですね。
 舛本 とは言え、ある程度の法則はあるのです。動画マンが最初に受ける研修も13項目くらいに分割されていて、それぞれ基礎的な動かし方を習います。その特徴・作法をある程度抽出――という言い方で正しいのかな――したうえで自動学習にかければ、法則に則った動画ができるかもしれないなぁ……と思いました。
 まつもと もし実用化されれば、「国内での動画・仕上げ」「海外に出している動画・仕上げ」のほかにもう1本、「自動化した動画・仕上げ」というラインが増えます。これによって、アニメーター不足が原因の海外依存から脱却できる“可能性がある”と。
 舛本 “可能性がある”ですね(笑)
 まつもと この問題って、アニメ業界だけでは解決しなくて、AI研究者や研究機関との連携がめちゃくちゃ重要ということになりますよね。
 ゲームエンジンがアニメを救う?
 まつもと 人手不足の解消方法として、AI以外の選択肢を1つ挙げてみます。具体的には、無料で使えるUnityのAnime Toolboxを使うと、リアルタイムの3Dレンダリングのなかで動画ができるし、色も着けて仕上げもできる。
 さらにコンポジットにも撮影の機能を持たせていて、謳い文句としては「After Effects同様の作業結果が得られる」。
 舛本 ああー、なるほど。
 まつもと ただ、ゲームエンジンなので、セルルックではありますが、フル3DCGなわけです。ここが、もう1本のラインとして成立しうるのかどうかというところも、舛本さんにお話をうかがってみたかったんです。
 舛本 たぶん普通にあり得ることかな。今でも3DCGが2Dのアニメに貼り込まれることはたくさんありますので、そこに違和感がないのであれば、3Dを使った自動中割りがあったとしてもおかしくないなと思いますね。
 3dx MaxとUnityでそれぞれレンダリングした場合の比較映像。アニメ『Hello World』の各場面を使用している
 まつもと ゲームエンジンを使った場合、動画・仕上げの工程には通さずに、いきなり撮影に持っていけるものなのでしょうか?
 舛本 作り方にもよりますが、うちの作品ですと、出来上がったコンテからカット単位で3Dに流れていって、最後に素材として撮影に入る、という流れになります。
 まつもと 現状ではリアルタイムレンダリングではなく、モデリングしてレンダリングしてという、3Dのお作法に沿って作ったものを撮影に流しているわけですが、リアルタイムレンダリングができるゲームエンジンを導入すれば、レイアウト、プリビズの段階から一貫して使えるのでは、という話も出ています。
 工程が大幅に圧縮というか、1つの工程でほとんどのことが終わっている、というアニメの作り方も可能にはなりそうですよね。
 このように、技術的には解決方法がいくつか提案されています。おそらく、共通する問題は、現場にノウハウがあまりないので、ゲームエンジンを作っている会社や、AIを研究している研究機関などとの連携が欠かせないことです。
 舛本 そうですね。ちょっと自分たちの業界では、なんとも前に進まない案件で。
 まつもと 系統が違いますからね。ありがとうございます。相次いだ延期の問題を今後どのように解決していけばいいのか、お話を広げておうかがいしました。
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 まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第92回
 〈後編〉アニメの門DUO TRIGGER取締役・舛本和也さんと語る
 深刻なアニメの原画マン不足「100人に声をかけて1人確保がやっと」
 2023年09月24日 15時00分更新
 頻発したアニメ放送配信の延期、デジタル化と制作進行、アニメ業界で求められる人材……TRIGGER取締役・舛本和也さんにうかがった
■アニメ業界の働き方改革は「ファイル共有」から始まった!?
 前編に引き続き、アニメスタジオ「TRIGGER」の取締役・舛本和也さんをお迎えして2023年2月に生配信したインタビューを再構成してお届けします。

 まつもと では、2つ目のコーナーにいきたいと思います。昨今、アニメの制作工程は変化していますし、これからも変化が必要であるという状況にあります。
 舛本さんはアニメの制作進行を目指す人向けの本を星海社さんから出版されていますし、同じテーマで同人誌も精力的に発表しています。
 制作進行と言われて我々がイメージするのは、アニメ『SHIROBAKO』で描かれたようなスタイルですが、それが変わってきている、あるいは変わらなきゃいけない、というようなお話もこのコーナーでうかがえればと思っています。
 舛本さんが『アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本』という本を著したのは2014年です。それからだいぶ時間も経ちましたけれども……。
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 アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本 (星海社 e-SHINSHO)
 舛本和也
 講談社
 舛本 本が出てから8年経ちますが、根本的にやらなきゃいけない仕事というのはあまり変わっていません。ただ、それを処理していくためのツールはすごく変わりました。1つのきっかけになったのはコロナ禍です。
 急速に、色んなものがデジタル化していく流れのなかで、たとえばオンライン会議システムを使って、対面ではなく、場所を問わない状態での打ち合わせが可能になりました。どこでもできるようになった、というのは作業が軽減した大きな要因だと思います。
 まつもと 最初はアレルギー反応もあったかと思います。
 舛本 はい(笑)
 まつもと 私は教育現場におりますが、未だにアレルギー反応がありますね。一方、色んな方にお話を聞く限り、アニメ業界はオンライン会議が当たり前になったと。
 舛本 そうですね。
 まつもと 素晴らしい!
 舛本 あと、アニメ業界を大きく変えたのは、共有という概念です。
 アニメ制作ではさまざまなものを管理するための表が必要です。5年前は基本的にExcelやWordのファイルデータが個別に存在している状態でした。そのデータをコピーしてメールで渡していたので、渡されない人は何もわからない、という課題がありました。
 これを「Google ドキュメントスプレッドシートを共有する」という方法に変えたことで、メールアドレスを登録した全員が同時に最新データを見られるという状況になりました。
 まつもと 事故も起こりにくいですよね。古いバージョンで作業してしまう人がいなくなるので。
 舛本 そうです。ダイレクトな言葉でのやり取りだけではなく、各種データもオンデマンドで誰でも見られる状態になったというのは大きな改革だったなと思います。
 そしてもう1つが、SlackやLINEなどのコミュニケーションツール。テキストベースで物事のやり取りをすることが生理的に嫌な方もいらっしゃいますが、コロナ禍でやらざるを得ない状況になって浸透していったというのはありますかね。
 まつもと 使ってみると意外と快適で、拒絶反応があった人もなんとかなってしまいますし。
 まあ当然、監督さんがどうしても大事なことを身振り手振りやその場の空気感も含めて伝えたいんだ、というときは対面で集まると聞きますが、データを右から左へ動かすのであればグループウェアで十分ですし、アニメ業界は切り分けが本当にうまくいったなと思います。
 舛本 そうですね。幸か不幸か、強制的にやらざるを得ないという状況が変えた部分は大きいです。そしてもう1つ、デジタル作画によって在宅ワークが可能になったことで、アナログからデジタルに移行する方が増えました。
 まつもと それは原画ですか?
 舛本 原画、動画どちらもですね。もちろん業界全体ではありませんが、明らかにここ2~3年でデジタル作画の急速な浸透が起こっています。
■もう1つのボトルネックは……
 まつもと ちょうど良いタイミングなので、先ほど聞き忘れた話をここでおうかがいします。
 前編で話題になった、動画・仕上げがボトルネックになっているという問題ですが、国内で作業をされている方にお話をうかがうと、紙の原画ないし動画をスキャンしてデジタルデータにした後、仕上げの作業に入る際、線が拾えないとか、4Kなど高い解像度に十分に対応しきれず、結局もう1回仕上げの段階で線を引き直している、というようなことが結構起こっている、と。
 つまり、「動画・仕上げの海外依存」がボトルネックになっていることは事実だけれども、決してそれだけでなくて「アナログ率がまだまだ高い原画や動画」そのものだってボトルネックじゃないか、という指摘もあったんです。
 この点についてはどうお考えでしょうか? 先ほどのお話では、作画のデジタル化はだいぶ進んでいるとのことなので、解像度問題も解決されつつある?
 舛本 進んでいるというのは事実で、以前より浸透しているという言い方ができます。ただ厄介なのは共通ルールが存在せず、各社ごとに異なるルールで作っていることです。たとえば解像度の考え方も会社によって違います。
 デジタル化は進んでいるものの、業界共通のルールのようなものは存在していないとのこと
 まつもと TRIGGERさんは、たとえば『サイバーパンク エッジランナーズ』でNetflixに納品したご経験がありますが、Netflixの要求仕様は高いことで知られています。高い仕様にも合わせられる制作工程、ラインが組まれてルール化もされているという理解でよろしいのでしょうか?
 舛本 はい。まず最終的なアウトプットを高解像度で高品質な映像の納品フォーマットに合わせるということであれば、制作工程もおのずと決まりますので、最初からそれを前提としたスケジュールやラインを作ることになります。これが大前提です。
 その後、高品質に足り得る解像度で線画を描いているかというと、じつはやっていないんですね。ある意味、アニメって特徴抽出されたものでもあるので、高解像度にしても意味のない部分があります。そのためアップコンバートをかけて最終的に引き上げる、という方法を採用しています。
 まつもと それは高解像度で配信する大手とも、アップコンでOKですよという取り交わしがある?
 舛本 契約によるところなので、全部が全部そうなっているという言い方はできないですね。最初の交渉や、ご依頼があったときに規定も教えてもらい、それに沿って僕らは納品している、という言い方ができます。
 まつもと なるほど。単純に映像の解像度などで比較するのはナンセンスだと思いつつも、横に並べて見たとき、たとえばリコメンデーションで海外のアニメを見ていた人が日本のアニメにたどり着いたときに、なんかちょっとレトロな感じがするというか、違和感を覚える心配ってないんでしょうか?
 舛本 今は感じられないとしても、5年10年経って、もっと高品質な映像が求められるようになると、その心配は出てくるかもしれません。
■現在は「100人に声をかけて、やっと1人見つかる」レベル
 まつもと お話を戻しますと、スケジュール管理方法や工程そのものに変化が起きると、制作進行というお仕事の中身も変わっていくのでしょうか?
 まず、「共有」ができるようになったことで、これまではスケジュールや最新素材は制作進行が握っていて、制作進行こそがすべてを管理する立場にあったわけですが、みんなが同時にデータ共有できるのであれば、制作進行の仕事も変化せざるを得ないのでは、というのが1点ですね。
 あともう1つは、前編で話したような「制作進行がいくら頑張ってもスケジュールを守りきれない状況が発生しがち」であること。この2点にどう対応していけば良いのかな、と。
 舛本 そうですね。まず2022年末のような状態はもうお手上げするしかありません。上司に報告するしか手がないレベルです。
 まつもと 『SHIROBAKO』で言うところの「万策尽きた」ということですよね。
 舛本 はい。そこはもう、制作進行が気負いしても仕方ないよねと言うしかないと思います。で、もう1つの役割の変化ということですが……アニメはたくさんの人の手を伝って素材をビルドアップしていく仕事なので、どうしても遅延は起こります。ですので、マネージングする人間がいないと前に進まないという側面は全然、変わっていません。
 まつもと 遅れていたら「早くしてください」だし、最悪、ほかの人を当てて対応する。そして、意思決定があるということですよね。
 舛本 そうですね、ある意味の意思決定ですね。あと、もう1つだけでっかい役割が。
 ここ1~2年、急速に人手不足が進んでいます。よくネットでも言われる「アニメーターを捕まえることができない」という言葉がときどき出てきます。具体的には100人に声をかけてやっと1人見つかるという状況なのです。制作進行としては、100人に声をかけるだけでかなりの作業量になってしまいます。
■アニメ業界はマイナビリクナビとは無縁!?
 まつもと では3つ目のテーマに入ります。
 「アニメ業界に求められるスキル・人材とは?」ということで。じつは「ワクワーク2024」というアニメ業界就職イベントが開催されます(編註:すでに開催済)。舛本さんは参加されますし、優先チケットを買った人には本の配布もあると。これは主に制作進行を志望する学生さんが集まるのでしょうか?
 舛本 ここはアニメに関わるお仕事全般ですね。アニメーター以外にどんな職種があるのか、それぞれどのような役割を持っているのかを知って欲しいという願いが根本にあります。
 制作進行のほか、バックオフィスや宣伝部、もちろんクリエイティブな職種も今回のフェアでは募集されていますね。
 まつもと そうだったのですね。ちなみに下の図は動画協会さんの公式サイトからダウンロードできるPDFで、制作進行と作画担当のキャリアマップです。どちらも、いわゆる業界への登竜門と言われたりしますけれども、今回は両方の志望者が対象になったイベントであると。
 舛本さんはこういったイベントにはどのような期待とか手ごたえを感じていらっしゃいますか?
 舛本 弊社としては、毎年このイベントに参加させてもらっているんですけれども、実際に学生さんたちとやり取りをさせてもらうと、やはり弊社に応募していただく率が上がります。
 悩み相談会がその場で始まったりもするのですが、「こういった考え方で仕事を選んでも良いんじゃない?」というようなアドバイスや選択肢を提示できますので、そういった意味では僕やTRIGGERにとってもすごく良いイベントだなと思っています。
 アニメ業界就職フェア「ワクワーク」は定期開催されている
 まつもと 昨今の就職活動はマイナビリクナビのオンライン版を検索してエントリーをして……というのが一般的な流れになっていますよね。でもアニメやゲームの仕事は、その流れには出てこない。
 舛本 そうですね。
 まつもと 私は大学で学生たちに、「そこで検索してもないから、自分でアニメ会社の公式サイトやイベントをチェックすれば良いんだよ」とアドバイスしていますが、まだまだ知られていません。
 フォローすると、マイナビリクナビに載せるためには結構なお金がかかりますし、あの場所は広く就活をしている学生さん向けなので、アニメ業界はその仕組みにうまくハマらないというか、載せたところでマッチングがうまくいかないかな、と思ったりします。
 今回は、アニメ業界にどんな危機感があってどんな人材が求められているのかという話をしているわけですが、そこまで問題意識を高く持った学生さんってなかなかいません。一番多いのは「アニメが好きです」と憧れてくる人ですよね。
 舛本 そうですね。9割以上はアニメが好きという動機です。これは昔から変わりません。
■志望者とアニメ会社接触ポイント作りが急務
 まつもと 作画ですと専門学校に求人票が届けられることも普通ですし、講師の先生に直接「良い学生さんいないですか?」と声がけがあることも多いと聞きます。対して、制作進行はあまり……。
 舛本 たぶん各社公式サイトの就職情報をずっと追いかけていると、大手は必ず募集されていて欄もありますよ。逆に言うと公式サイト以外の情報はないと言って良いかもしれません。
 まつもと 制作進行が足りない時期に「急募」の情報を出しますよね。ただ、大手さんなら大丈夫ですが、中堅・中小になってくると育成の余裕がないので「経験者募集」になる。
 舛本さんがおっしゃるように、制作の人手は足りないのですから、学生さんたちに「アニメ業界はさまざまな職種が人手不足で、公式サイトで募集している」ということがもっと伝われば良いなと思うのですが。
 舛本 そうですね、本当に。
 まつもと ワクワークが盛況なのはまさにそういった背景があってのことなのでしょう。そのほかに会社と学生を中心とした志望者のマッチングに必要なことってありますか?
 舛本 やはり接触ポイント、情報の集まる場所が足りないというのが一番不幸なことだろうと思いますね。「アニメ関係の就職情報はここを見れば一発でわかる!」みたいなサイトがあれば、それだけで認知度が上がるだろうなと思います。
 まつもと ありがとうございました。
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