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・ ・ {東山道・美濃国・百姓の次男・栗山正博}・
庶民は、武士とは違って家・一族・家門とは無縁で、当然、先祖代々の墓さえ持たず、一人で生まれ一人で死んで行った。
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令和6年7月号 正論「読書の時間 桑原聡この本を見よ
『ひとりみの日本史』 大塚ひかり著
『源氏物語』の全訳を筑摩書房から刊行した著者によるユニークな歴史エッセイである。『ひとりみ』、すなわち独身で生きた実在の人物や物語の登場人物のエピソードを紹介しながら、明治以降に成立し、いまなお私たちを縛る結婚観や家族観を根源的に問い直そうとする。
著者はまず、わが国の文化の底流には『ひとりみ』への憧憬が脈々と流れているのではないかとの仮説を立てる。その論拠となるのが日本最古の文学である『古事記』である。同書によれば、イザナキ・イザナミの夫婦神が現れる以前、天地が発動したときに、アメノミナカヌシ、タカミムスヒ、カムムヒスという性別不明の神々が高天原に生成し、みな独身の神として消えていったことになっている。その後に現れたやはり性別不明のウマシアシカビヒコヂ、アメノトコタチといった神々も独身の神として消えてゆく。おこれはいったい何を意味するのか。
論拠はまだある。『竹取物語』『源氏物語』『徒然草』というわが国を代表する古典だ。この三作品にはいずれも明確な結婚拒否の思想で貫かれているのである。そこには6世紀半ばに伝来した仏教、すなわち家族を捨て『ひとりみ』になって悟りを開いた釈迦の生涯や末法思想の影響が色濃く滲んでいるのは言うまでもない。
また著者は、さまざまな歴史研究者の業績を渉猟(しょうりょう)しながら、婚姻率の動きを紹介してゆく。わが国が皆婚社会となったのは16~17世紀のことで、それ以前は下人など隷属農民の大半が『ひとりみ』で人生を終えたという。簡単に言えば貧困が原因だ。『竹取物語』『源氏物語』『徒然草』に滲む結婚拒否の思想とはまったく別物だ。そもそも結婚は、特権階級にだけ許された営みだったのだ。
ところが、市場経済の拡大によって、隷属農民は自立の機会を得て、社会全体の有配偶率が高まっていった。江戸時代になって実現した社会の安定がこれに寄与したのは言うまでもない。
面白いのは江戸時代後期になると少子化が進み、『ひとりみ』が増加したという事実だ。飢饉、幕府崩壊の兆し、西欧列強による侵略の可能性といった『将来への不安』が人々に『ひとりみ』を選択させたと考えるのが妥当だろう。
現在のわが国で進行する非婚者の増加、そして少子化は、幕末の人々が感じたように、沈みかかった泥船に乗っているような『将来への不安』を私たちが感じているからだろう。もはや政府が小手先でどうにかできる問題ではない。そんな感を強くする。
追記すれば、性的マイノリティーゆえに『ひとりみ』を通した実在の人物、松尾芭蕉や平賀源内などのエピソードも、どんな立場であれ、現在のLGBTQ問題を考えるうえで、有益な視座を提供してくれる。」
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