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2024年3月24日 YAHOO!JAPANニュース withnews「源氏物語は〝最古の女性文学〟…じゃない! 東アジアの文化の集大成だった 紫式部の能力とは
宇治川のほとりに立つ、「源氏物語」宇治十帖のモニュメント。「源氏物語」を「最古の女性文学」と呼ぶ例もありますが…=朝日新聞、2023年9月、京都府宇治市、北川学撮影
大河ドラマ「光る君へ」をテーマとした記事などで、紫式部の書いた「源氏物語」が「世界最古の女性文学」と紹介されることもあります。しかし、平安文学を愛する編集者のたらればさんは「これは単純に間違い」と指摘します。おすすめの「源氏物語」現代語訳や、その解説本も紹介してもらいました。(withnews編集部・水野梓)
【画像】「光る君へ」たらればさんの長文ツイート 1年「情緒がもつのか…」
東アジア文化の叡智の集大成
水野梓(withnews編集長):源氏物語を「世界最古の女性文学」と紹介する記事などもありました。たらればさんはX(旧Twitter)などでも明確に否定していますね。
たらればさん:これはよくある誤解だし、そう言いたくなる気持ちも分かるんですよね。源氏物語が日本文学を代表するすごい作品だというのは、まあ広く一般的に普及している認識で、では「どこがすごいのか」というと、なかなか説明が難しい。
特に「ひと言で短く説明してください」と言われると非常に難しくて、そこでたとえば「最古の物語」だとか「最初の女性文学/女流小説/ベストセラー」といった「分かりやすいフレーズ」をつけたくなる気持ちは分からないでもないとは思います。思いますが、しかしこれは単純に間違いなわけです。
なぜいちいち「そういうこと」を説明したほうがいいかというと、これは日本文学史をすこしでも体系的に学ぶと分かることですが、源氏物語は「それまで」のいろいろな作品や文化の集大成のひとつだからです。
水野:さまざまな作品のエッセンスが入っているということでしょうか。
たらればさん:そうです。河添房江先生の「源氏物語と東アジア世界(NHKブックス)」でも解説されていますが、源氏物語はそれまでの日本文学作品だけでなくて、東アジア文化全般の叡智が集結されているものでもあります。
だから「紫式部は突然変異で現れ、【神】のようにあらゆるシーンやキャラクターを創作した」で終わってしまうのは、ちょっと違うんじゃないかなということです。
水野:なるほど。
たらればさん:紫式部という作家は、ゼロからイチを作り出す能力ももちろんあったとは思いますが、それ以上に、人の話を聞いてそれを昇華したり、先行する作品を読み込んで自作品に盛り込んだりアレンジして再構築する能力も非常に高かったわけです。
彼女は天才ではあるんですが、それまでにあった豊かな文化の土台を吸収して大成させた人物でもあるわけです。
水野:源氏物語よりも過去の文学作品で「女性文学」というと、道綱母が書いた「蜻蛉日記」のほかにも、さまざまな女性が詠んだ和歌もありますよね。
たらればさん:紫式部は和歌も漢詩も物語も好きでしたから、自国の古典作品も、海外の文化も、貪欲に吸収してあの作品ができているわけです。
「光る君」は固有名詞でなく「光って見えた」
たらればさん:僕たち日本語文化圏に育った人間は、「光る君」と聞くと、「源氏物語の光源氏」という固有名詞でとらえますよね。
水野:そうですね。古文で習ったなぁ、と。
たらればさん:でも、多分、なんていうのかな…、源氏物語が書かれた頃の人にとっては、本当に誰かが光って見えていた経験があるんだと思うんですよ。
これは「レディ・ムラサキのティーパーティ らせん訳『源氏物語』」(毬矢まりえ・森山恵著)の書評でも書いた話なのですが…
<アーサー・ウェイリーが100年前に英訳した「源氏物語」を、現代日本語に再翻訳した著者のふたりが、時空を超えた物語の秘密と魅力を解きあかす内容>
たらればさん:きっと当時、自分よりもずっと高貴な人は、実際に光って見えていたと思うんですね。これは今でも信心深い人には「そのように」見えているとも思うのですが。
水野:光って見えた!
たらればさん:優れた人や徳の高い人が光って見える…というのは、世界中の伝説で語られていますよね。
仏像や仏画には「光背」と呼ばれる意匠が施されていて、あれはつまり後ろから光が当たる「後光」です。あんなイメージ。
だから源氏物語の光源氏という人は、幼い頃から周りの人には実際に光り輝いて見えていたんでしょう。たぶん見る側の人が興奮して、瞳孔が開いて世界が明るく感じていたんじゃないかと思いますけど。
水野:たしかに魅力的な人がキラキラ輝いて見える…というのはマンガなどの作品でも見られる表現方法ですよね。わたしたちにも実際にそう見えているからなんでしょうね。
たらればさん:この先、大河ドラマの主人公・まひろ(後の紫式部)は、思いを寄せ合う藤原道長を、ずっと見続けることになるわけですよね。光り輝く人に出会って、それを物語の主人公に据えようと…。
水野:そして道長にとっても、まひろは光っているわけですよね…。
たらればさん:だから雑踏の中でもお互いをすぐ見つけ出せるんですよね。
「物語でしか語れないことがある」
水野:やはり古文で通読するのは難しいので、現代語訳で源氏物語を読んでみたい、という方には、どなたの訳がおすすめですか。
たらればさん:あらすじの次のステップとして、源氏物語を現代語訳で読んでみたい方には、河出文庫から出ている角田光代先生の訳や、理論社から出ている荻原規子先生の訳がおすすめです。
水野:1000年前の文化や風習の違いを飛び越えるためにも、やっぱり現代のわたしたちに近い時代の訳を通して読んだ方がスッと入ってきそうですね。
たらればさん:古典文学全般に言えることですが、やはり当時の常識でしか分からない文脈や前提があるので、わたしたちに近い時代の訳のほうが、「そこ」が埋められていると思います。
もともと「源氏物語」は限られた貴族に向けた物語なので、より「分かる人だけ分かればいい」という文脈勝負みたいなところがあって、そういった文脈を想像で埋めていくしかありません。
たらればさん:今回の大河ドラマ「光る君へ」のすばらしい点のひとつは、大事なシーンでセリフがないところだと思いますが、わたしたち視聴者はその隙間を想像で埋めていきますよね。
まひろはきっとこう思ったはず、道長はこう感じているはず…と想像すると、登場人物が自分だけのまひろになり、自分だけの道長になってゆきます。
水野:より思い入れが強くなっていきますよね…。だからダメージも受ける…。
たらればさん:より力強く作品と結びつくことができる、これは作劇のうまさだし、解釈の多様性を武器にしているんだなあ、と思いますね。
紫式部がバー「ゆかり」を開いたら…
水野:先ほど、源氏物語は現代の文化とは大きく違うという話がありましたが、山崎ナオコーラさんの「ミライの源氏物語」(淡交社)がすごく面白くって。
たらればさん:あ~面白かったですね。読みやすく、非常に勉強にもなりました。
水野:ロリコンや不倫、ジェンダーといった現代の目線だとモヤモヤするところをどう読んだらいいのか、というのをエッセイ形式で書いてくれていて。源氏物語の描写を振り返ることもできるので、おすすめです。
たらればさん:それがお好きなら、おすすめがありますよ。奥山景布子先生の「ワケあり式部とおつかれ道長」(中央公論新社)です。
作家であり、源氏物語のばりばりの研究者でもある奥山先生が書かれていて、「ママ」である紫式部のバー「ゆかり」に行って、お酒の合間にいろんな体験談や愚痴を聞いていく…という面白いスタイルの本です(バーテンダーは行成、常連客は道長)。
水野:わ~絶対読んでみよう。前回のたらればさんのおすすめ本も、すでに2冊読みました。当時の文化や貴族たちの思いがもっと知りたいなぁって感じましたね。
▼大河ドラマ「光る君へ」深掘りしたい人へ たらればさんのおすすめ本
https://withnews.jp/article/f0240218000qq000000000000000W02c10501qq000026632A
たらればさん:源氏物語という作品は、おそらく日本文学で最も研究者が多いジャンルであり、紫式部ってやっぱり国文学界のスーパースターなんだなってあらためて思いますね。
今年の大河ドラマをきっかけに、1冊でもいいので平安時代の関連本を読んでもらって、紫式部や清少納言のことを好きになってもらえると嬉しいです。
◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。
次回のたらればさんとのスペース(https://twitter.com/i/spaces/1OdKrjeLXdQKX)は、4月7日21時~に開催します。・・・
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