💄51)─1─江戸の男性が春を売る陰間茶屋。男の遊廓。男にも性の地獄があった。~No.104 

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 江戸の町の人口は、男性が多く、女性が少なかった。
 江戸文化には、男色文化(男の同性者文化)がある。
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 2025年3月13日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「男性が春を売る遊廓…『べらぼう』で描かれる花街とは異なる知られざる「陰間茶屋」の世界
 漫画『芳町花かげ地獄』田中優子×並木クロエ対談 前編
 今年のNHK大河ドラマ『べらぼう』の舞台であることから、ひときわ注目が高まっている江戸中期。庶民の暮らしが豊かになり、さまざまな町人文化が花開いたこの時代を語るうえで、芝居や相撲と並びはずすことができないものといえば、遊郭をはじめとした”色街の文化”。
 豪華絢爛、華やかな表舞台の一方で、時に生き地獄とも表現されるほど大きな闇を抱えていた江戸の花街。そのなかでも、男性が春を売る「陰間(かげま)茶屋」で生きる人々の光と影を描いたコミックスが並木クロエさんの『芳町花かげ地獄』(Kiss/講談社)だ。
 3月13日に『芳町花かげ地獄』コミックス1巻が発売されることを記念して実現した、作者の並木クロエさんと、江戸文化研究の第一人者で法政大学名誉教授の田中優子先生の対談を前後編でお伝えする。前編では、並木クロエさんも田中先生も「花街」というデリケートな題材と向き合う理由と心構えについて、互いの想いをお話しいただいた。
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 『芳町花かげ地獄』に描かれる世界観
 並木クロエさん(以下、並木): 私は以前から田中先生の大ファンで、著書を愛読しているのはもちろん、先生が学術顧問を担当された昨年公開の『大吉原展』も観に伺いました。今回、対談の機会をいただけたことをとてもうれしく思っています。
 田中優子さん(以下、田中):私もうれしいです。実は対談のお話をいただいて、ぜひお受けしたいと思った明確な理由は、『芳町花かげ地獄』の作品内に、花街の地獄・極楽の世界観が描かれていたからなんです。
 陰間茶屋・紫扇楼の跡取り娘である一花は、ある日、川で溺れる少年・のあを助ける。だが、彼は紫扇楼に陰間として売られる道中で…。©並木クロエ『芳町花かげ地獄』/講談社
 田中:遊郭は、ある人、つまりお客様にとっては極楽だったでしょうし、当然ながらそういう華やかな世界として演出されていたはずですよね。でも、遊女をはじめとした作り手側の立場から見たら、地獄だったりするわけです。これは絶対に忘れてはならない視点で、並木さんの作品はその両方の面をおさえて描かれている点が心に残りました。
 並木:ありがとうございます。
 ©並木クロエ『芳町花かげ地獄』/講談社
 本当のことを伝える意味
 デリケートな事柄だからこそ、本当のことを伝えたい
――田中先生は著書の『遊郭と日本人』で、「遊郭は、二度とこの世に出現すべきでない」と断言されている一方、その歴史と記憶は語り継ぐべきともおっしゃっていますね。江戸の花街文化はデリケートな題材でもありますが、お二人が意識されているのはどのようなことでしょうか
 並木:大前提として、私は自分の作品で誰のことも傷つけたくないと思っています。ただ、本作は陰間茶屋を舞台にした作品である以上、センシティブなシーンもしっかり描写する必要があります。だから、そういうシーンを描く場合は担当編集さんと、かなりしっかり打ち合わせをしています。
 ©並木クロエ『芳町花かげ地獄』/講談社
 田中:並木さんの場合は漫画だから、絵とセリフで表現する必要がありますもんね。たとえばどんなことを打ち合わせで話すのでしょう?
 並木:どこまで描くのかもそうですが、主人公たちがいまどういう感情なのか、ということを大切にしています。そのうえで、読者の方に意図した通り伝わるか、不快に感じないだろうかということを話し合って、漫画にしていきます。
 田中:私が大事にしているのは “本当のことを書く”ということです。現代の価値観で見ると「これはちょっと…」と思うような内容であっても、それが事実なのであれば、私はきちんと伝えるべきだと思うんです。加えて、私たちの時代はその事実に対してどうあるべきか、という自分の意思をきちんと書くことも大切にしています。
 女性の楼主を描きたかった
 男性の部下をもつヒロインを描きたかった
――『芳町花かげ地獄』は、妓楼の楼主(オーナー)が主人公ですね。
 田中:なかなかできないことに挑戦されているなと思いました。実は、吉原にかぎっても楼主についてはわかっていない部分が多いんですよね。ただ一つ、間違いないのは、花街の地獄と極楽の両面を知っていたのは楼主だけだろうということですよね。
 並木:実は、この企画を考え始めたのは女性用風俗が話題になっていたタイミングで、最初は現代を舞台にしようと思っていたんです。でも、どうしてもしっくりこなくて、年代を下げていった結果、江戸時代になりました(笑)。
 ©並木クロエ『芳町花かげ地獄』/講談社
 並木:ただ、どの時代が舞台であっても、男性の部下をもつ女性をヒロインにするということは決めていました。それは、女性の社会進出が進み、多様性の時代といわれる令和の読者に響くものがあるのではないかと思ったからです。
 田中:吉原には、女性の楼主や遣手(やりて:妓楼のマネージャー役)がいたことがわかっています。だから、時代考証の面から見ても、陰間茶屋に一花のような立場の女性がいたとしてもおかしくはないと思いますよ。
 後編は、「陰間」とは一体どういった存在だったのか、花街の恋愛事情含めて、『芳町花かげ地獄』で描かれる世界について、並木さんと田中先生に引き続きお話を伺う。
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 【田中優子先生×並木クロエさんの対談:後編】はこちらから
 『意外と知られていない男にもあった地獄…江戸で男が春を売っていた「陰間」という存在』
 並木クロエ 
 東京都の下町生まれ。早稲田大学にて美術史専攻後、商社経理から漫画家になる。現在「芳町花かげ地獄」をKissにて大好評連載中。
 田中優子 
 神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部教授、社会学部長等を経て法政大学総長(2021年に退任)。専門は日本近世文学、江戸文化、アジア比較文化。著書に『江戸の想像力』、『江戸百夢 近世図像学の楽しみ』など多数。近著に『昭和問答』『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』など。
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 3月13日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「意外と知られていない男にもあった地獄…江戸で男が春を売っていた「陰間」という存在
 並木クロエ『芳町花かげ地獄』/講談社
 NHK大河ドラマ『べらぼう』で描かれる吉原・遊郭。豪華絢爛、華やかな表舞台の一方で、江戸の花街で暮らす女性たちにとっては「生き地獄」であり、大きな闇を抱えていた。実は、花街で春を売っていたのは、女性だけではなく、男性の「陰間(かげま)」も存在していた。そんな陰間がいる「陰間茶屋」で生きる人々の光と影を描いたコミックスが並木クロエさんの『芳町花かげ地獄』(Kiss/講談社)が今話題を呼んでいる。
 【画像】漫画家・並木クロエさんが描く、男が春を売る「陰間」の世界
 今回、3月13日に『芳町花かげ地獄』コミックス1巻が発売されることを記念して、作者の並木クロエさんと、江戸文化研究の第一人者で法政大学名誉教授の田中優子先生の対談が実現した。田中先生は、『芳町花かげ地獄』を読んでこう感じたという。
 「遊郭は、ある人、つまりお客様にとっては極楽だったでしょうし、当然ながらそういう華やかな世界として演出されていたはずです。でも、遊女をはじめとした作り手側の立場から見たら、地獄だったりするわけです。これは絶対に忘れてはならない視点で、並木さんの作品はその両方の面をおさえて描かれている点が心に残りました」
 前編では、並木クロエさんも田中先生も「花街」というデリケートな題材を向き合う理由と心構えについて、互いの想いをお話しいただいた。後編では、「陰間」とは一体どういった存在だったのか、花街の恋愛事情含めて、『芳町花かげ地獄』で描かれる世界について、並木さんと田中先生に引き続きお話いただく。
 女性たちも陰間茶屋に通っていた…?
――遊女と陰間、性の違いは明らかですが、田中先生から見てそれ以外に明確な違いはありますか?
 田中優子(以下、田中):細かく見ていけば、もちろんほかにも違いはあります。でも、どちらも遊女歌舞伎と若衆歌舞伎という芸能が出自。それに、ショーとしての華やかさや意味、人々が彼らに求めていたものは変わらないのではないでしょうか。
 並木クロエさん(以下、並木):たとえば、扇子はビジュアルの美しい男性が売っていた傾向にあるといわれていますが、当時、男色を売った陰間と扇売とで、一般女性の視線に差はあったのでしょうか?
 田中:なかったと思います。というのも、民俗学者白倉敬彦との共著『江戸女の色と恋:若衆好み』を出す際に、いろいろと調べたんですね。
 並木:擦り切れるまで愛読している本です!
 田中:そちらも読んでくださっていたんですね(笑)。では並木さんはご存じの通り、こちらは元服前の美少年“若衆”(※)を掘り下げた本です。一般的に、若衆というと男性同士を想像すると思いますが、さまざまな浮世絵を検討するうちに若衆と女性の組み合わせもあること、また女性たちは若衆を“美しい男性”として見ていたことがわかってきたんです。
 ※陰間は若衆とも呼ばれる
 並木:江戸中期は、性の捉え方が柔軟だったこともわかっていますね。
 田中:ええ、そうですね。そういった状況から見ても、陰間茶屋に通っていた女性がいたとしてもおかしくはないと思います。ただ、性に柔軟な江戸時代といっても、女性たちはこっそり通っていたはずなので(笑)、残念ながらはっきりとした記録はありません。並木さんは陰間を描く際に、どんなことを意識されているんですか?
 並木: 本作には、いまのところ4人の陰間が登場しますが、全員の“陰間”という仕事への考え方が違うように描くことを意識しています。
 田中:きっと実際もそうだったでしょうね。
 並木:そうですよね。だから“陰間”という大きなイメージでくくることなく、それぞれの個性をしっかり描ききりたいという思いがあります。
 江戸・花街の恋愛事情
――『芳町花かげ地獄』は、一花とのあの恋愛も見どころの一つだと思いますが、楼主と陰間が恋をしたらどうなるのでしょう?
 田中:陰間にしても、遊女にしても、借金の形として身売りされてきているのが一般的なので、お金を返し終わるまで恋愛は御法度です。ただ、それでも恋に落ちてしまった場合はお相手が借金を肩代わりする、年季明けまで関係を隠し通す、または心中を選んだ例もありますね。
――いずれにしても、一花とのあの恋愛も、かなり厳しい道のりが待ち受けていそうですね。
 並木:そうですね。ただ、私のなかでこの作品はヒューマンドラマだと思っているんです。
 田中:おもしろいですね。
 並木:読者の方により楽しんでいただくためにも恋愛の要素をいれてはいますが、一番見ていただきたいのはそれぞれの生き方や成長です。これからすべてを描けるかはわかりませんが、彼ら一人ひとりの過去や、これからの選択に注目して読んでいただけたら嬉しいです。
――本作の舞台である江戸は、“ビジュアルの時代”ともいわれていますが、描く苦労も多そうですね。
 並木:江戸の暮らしを猛勉強していますがわからないことも多くて…。先日は、夜に何を着て寝ていたのか調べたのですが、掻巻なのか、掛け布団なのか…なかなか答えに辿り着けず苦戦しました。
 田中:当時の古着屋を描いた絵のなかに掻巻が売られていたので、掻巻を使って寝ていたのは間違いないと思いますよ。
 並木:そうなんですね! 江戸時代は小氷河期ともいわれているので、いまより寒かったはずですよね。でも、掛け布団がかかっている浮世絵が見つからなくて、一体どうだったんだろう…と悩んだのですっきりしました。
 作中の随所に散りばめたこだわり
 田中:参考資料となる浮世絵はたくさんあるけれど、それでも江戸時代を絵にするのは本当に大変ですよね。
 並木:やっぱり絵を見ないとわからないことは多いので、国会図書館に通ったり、シカゴ美術館の資料を参考にしたりしています。たぶん、描くよりも調べている時間のほうが長いです(笑)。
 並木:これは一例ですが、たとえば冬二郎というキャラクターの陰間道中のシーンでは、彼の京都出身という背景を生かすためにかんざしを平行に描きました。ただ、“陰間道中”自体は、あくまで私の創作になりますが。
 田中:当時のことを調べながら描くのは、大変だけどおもしろそうですね。
 並木:そうなんです! ただ、調べ物がおもしろくなっちゃって、肝心の仕事がはかどらないのが困りものです(笑)。また、調べたものの、そのまま絵にすると読者の方が混乱してしまいそうだな…と思うところは、あえて描かない場合もあります。
 田中:着物の柄を決めるのも大変でしょう?
 並木:そうですね。厳密にいえば、この季節にこの柄はNGなどあると思うんです。ただ、春信の浮世絵を見ていると、そこまで衣紋を抜いていなかったり、おはしょりが腰にお餅みたいについていたり…わりと自由だなと(笑)。
 田中:そうそう、あれはおはしょりを外に出しちゃっているんですよね(笑)。
 並木:調べるうちに、浮世絵がこうなんだから私も少し自由に描こうと思えるようになりました。それよりも、漫画を読んでくださった方が「かわいい」とか「綺麗!」と思ってくれることが大事かなと思っています。これは江戸とは関係ありませんが、たとえば1巻のカバーでは、“一生離れない”という花言葉をもつ藤をモチーフにしました。また、和歌で藤といえば浪(波)なので、着物の一部に青海波を描いています。
 田中:本当だ! 素敵ですね。
 並木:ひと目見ただけではわからないと思うのですが、わかる人が見たらおもしろい。そんな遊び心を絵のなかにいれたいなと思って作っています。
――最後に、並木さんより今後の作品に見どころをお聞かせください
 並木:一花とのあの恋愛模様はもちろんですが、陰間一人ひとりの過去や抱えている思いが明らかになり、置かれている立場も変わっていきますので、それぞれの個性や人間模様にも注目して見ていただけたら嬉しいです。
 田中:江戸は役割社会なので、完全なる個人として生きていくのが難しい時代なんですよね。でも、だからこそ「自分の役割とはなんなんだ」ということを強く意識しながら生きていたはずなんです。物語の登場人物たちがこれからどうやって“自分を生きていくのか”、私も続きが楽しみです。
 並木:ありがとうございます!
――お二人とも、ありがとうございました!
 並木クロエ
 東京都の下町生まれ。早稲田大学にて美術史専攻後、商社経理から漫画家になる。現在「芳町花かげ地獄」をKissにて大好評連載中。
 田中優子
 神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部教授、社会学部長等を経て法政大学総長(2021年に退任)。専門は日本近世文学、江戸文化、アジア比較文化。著書に『江戸の想像力』、『江戸百夢 近世図像学の楽しみ』など多数。近著に『昭和問答』『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』など。
 並木 クロエ、田中 優子
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