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日本の民族食である和食のルーツは、数万年前の旧石器時代・縄文時代にあった。
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2023年4月22日 MicrosoftStartニュース プレジデントオンライン「カルシウム不足なのに日本人の骨折率は欧米人よりも低い…日本の健康寿命を支えている「健康食材」の名前
佐藤 隆一郎
日本人の食生活では乳製品の摂取が少なく、特にカルシウムは多くの人が不足している。ところが、日本人の骨折率は欧米人より低い。東京大学大学院の佐藤隆一郎特任教授は「これは『ジャパニーズ・パラドクス』と呼ばれているが、私は大豆製品のさかんな摂取が骨折率の低さに影響していると考えている」という――。(第2回)
※写真はイメージです
© PRESIDENT Online
※本稿は、佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。
日本人の健康寿命を支えている大豆
大豆は畑の肉ともいわれる非常に栄養価の高い食材で、私たちが日常の食生活で口にする醤油、味噌、湯葉、豆腐、油揚げ、納豆、きな粉はすべて大豆製品です。
夏のビールのお供となる枝豆はもともと未成熟の大豆を収穫したものでしたが、現在では未成熟時の収穫に適した品種が栽培されています。もやしは完熟した大豆を発芽させたもので、緑豆を発芽させた緑豆もやしもあります。日本型食生活に不可欠な食材の多くが大豆からつくられており、これが日本人の健康長寿を支えているとも言えます。
畑の肉と称されるゆえんはタンパク質含有量の高さによります(図表1)。
乾燥大豆100g中のタンパク質は33g(33%)で、これは驚くべき数値です。豆類全般が高タンパク質食材かというと必ずしもそうではなく、落花生、そら豆は20%台半ば程度、それ以外の豆類は20%かそれ以下です。大豆のタンパク質含有量は成熟過程に伴って上昇するため、枝豆のタンパク質含有量は12%程度と完熟大豆の3分の1に留まります。ではここで、タンパク質含有量が高いと考えられる動物性食品と比べてみましょう。
タンパク質量はほかの食材と比べて非常に高い
牛乳のタンパク質含有量は33%、卵は12.3%、牛肉で12.9%程度です。乾燥大豆を直接口にすることはなく、加工されたものを摂取すれば当然タンパク質含有量は低下しますが、納豆で16.5%程度という数値からも大豆製品の優秀性がわかります。
健康な食生活を送るうえで、食材に含まれるタンパク質量は重要な要素となります。たとえば白米の栄養素の大半は糖質で、タンパク質量を1とすると14.8倍の量を含んでいます。血糖値が高めの人は白米で空腹感を満たすのではなく、大豆製品をメニューに取り入れて高糖質にならない工夫をすることも必要です。
ここまでは量的な観点からタンパク質含有量を見てきましたが、脂質の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のように、タンパク質の質的な違いについても目を向ける必要があります。タンパク質は20種類のアミノ酸が連なった形の高分子化合物で、このうち9種類は「必須アミノ酸」として食品から摂取する必要があります。
食品由来のタンパク質は消化管で消化された後、アミノ酸もしくは2~3個のアミノ酸が連なるペプチドの形で体内へと吸収され、最終的には個々のアミノ酸としてそれぞれ代謝されていきます。これらアミノ酸を原料としてタンパク質が合成されていきます。
9種類のアミノ酸は食品から摂取しなければいけない
20種類のアミノ酸は類似の構造を持っているため、代謝されて互いに形を変えることもできます。11種類のアミノ酸は他のアミノ酸から形を変え、あるいは脂質・糖質を代謝して供給することができます。
しかし残りの9種類のアミノ酸(トリプトファン、リジン、ヒスチジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、イソロイシン、ロイシン、バリン)はヒトの体内で調達できないため(ものによっては必要量の調達が困難)、食品から摂取する必要があります。この9種類の必須アミノ酸をまんべんなく十分量含むタンパク質は、アミノ酸スコアが高いタンパク質となります。
動物性食品に含まれるタンパク質は概してアミノ酸スコアが高くなりますが、植物性食品に含まれるタンパク質では低くなります。この考えの基礎となる概念はドイツの化学者ユストゥス・フォン・リービッヒが提唱した「最小律」によります。リービッヒは、植物の生長速度や収量は必要とされる栄養素のうち、与えられた量が最も少ないものにのみ影響されるとするという説を提唱しました。
また、桶から水がこぼれ出る様子を図示してこの概念をわかりやすくしたものが「ドベネックの桶」です(図表2)。これは必須アミノ酸が一つでも欠けていると、その栄養的な価値は最も少ないアミノ酸によって決定することを示しています。
大豆のアミノ酸スコアは鶏卵と同程度
必要量を最も満たさないアミノ酸を「制限アミノ酸」と呼び、多くの植物性タンパク質ではリジン(Lys)が制限アミノ酸となります。必須アミノ酸の一つであるリジンが欠けているため、植物タンパク質は動物タンパク質に比べて質が落ちるということになります。
乳タンパク質、鶏卵タンパク質のアミノ酸スコアは満点の100ですが、小麦タンパク質は制限アミノ酸がリジンで、そのスコアは37と低値になります。その中にあって大豆タンパク質は乳、鶏卵と同じくアミノ酸スコアが100と評価されており、これが畑の肉と呼ばれるゆえんです。
大豆は高タンパク質であると同時に、機能性成分としてイソフラボンを多く含みます。食品には五大栄養素が含まれますが、そこに含まれない非栄養素の多くは食品の色、香り、味のもととなり、三次機能の多くはこれら非栄養素からもたらされます。
最も身近な例はお茶に含まれるカテキンです。カテキンはイソフラボンと同じくフラボノイド類の一種で、植物の青色の原因物質であるアントシアニンもフラボノイドの一つです。フラボノイドは植物が生産する二次代謝産物の一つで、炭素6個から成るベンゼン環2個を3個の炭素がつなぐ構造の化合物です(C6-C3-C6構造)(図表3)。
ポリフェノールには抗酸化作用がある
フラボノイドの二つのベンゼン環に水酸基(OH基)が一つ付加されたものがフェノール、二つ以上付加されたものがポリフェノールで、これには抗酸化作用があります。つまり、フラボノイドはポリフェノールの一部ということです。
ポリフェノールの代表例は玉ねぎなどに豊富に含まれるケルセチンです。赤ブドウの果皮に含まれ、寿命延伸効果があるとして一時期脚光を浴びたレスベラトロールは、二つのベンゼン環を炭素2個でつなぐスチルベノイド骨格を持っているため、OH基を複数持つポリフェノールではありますがフラボノイドではありません。
コーヒーに含まれるカフェ酸もフラボノイドではありませんが、ポリフェノールの一つに数えられます。フラボノイド類はそれぞれフラボノイド骨格が異なり、そこに付加されるOH基の数や位置で別の化合物となります。植物の体内には必ず、OH基を介して糖が結合した化合物(配糖体と呼ぶ)が存在します。
糖の種類もさまざまであるため無限の組み合わせが生じ、フラボノイド類は7000種類を超えると言われています。糖を結合していない化合物をアグリコンと呼びます。植物体内でアグリコンは脂溶性に富むことから果皮、茎、種などに局在します。一方、配糖体は水溶性であるため植物体内を移動することが可能で、果肉、豆胚乳などに豊富に含まれます。
イソフラボンには女性ホルモン様活性がある
植物性食品中のフラボノイド類の大半は配糖体として存在し、たいていは摂取したのちに消化管で糖が切断され、アグリコンの形で吸収されます。アグリコンは脂溶性であるため小腸上皮細胞膜を透過しやすくなり、吸収効率が上がります。一方、配糖体の糖がグルコースである場合、グルコース輸送体によって配糖体も吸収されるという研究結果があります。
フラボノイド類の中でも、大豆に豊富に含まれるイソフラボンには大きな特徴があります。大豆中には含有量の多い順にゲニステイン、ダイゼイン、グリシテインの3種類のイソフラボンが含まれ、いずれのアグリコンもグルコースが結合した配糖体として存在しています。
また、女性ホルモン様活性が強い順に並べるとゲニステイン、ダイゼイン、グリシテインで、大豆中の存在比も同じ順で10対5~6対1となります。図に示しましたように、イソフラボンの構造は体内で女性ホルモンとして働くβエストラジオールと相似しています(図表4)。
私たちの研究室でも、これらイソフラボンとβエストラジオールのホルモン活性(正確にはエストロゲン受容体への結合活性)の比較をしました。当然、βエストラジオールが最も強い活性を示しましたが、ゲニステインはβエストラジオールの濃度の1000倍程度の濃度にすると、ほぼ同程度の活性を示しました。
血管への保護的機能も期待できる
血中のβエストラジオール濃度は生理条件により異なりますが、非妊娠時の女性で50~500pg/mL程度という報告があります。一方、大豆を多く摂取する人の血中のゲニステイン濃度は30~300ng/mLという報告があり、そうすると血液中にβエストラジオールの1000倍程度のゲニステインが含まれていることになります。
つまり、食品由来のイソフラボンが体内で一定の機能を発揮する機会は十分にあり得るということです。
女性ホルモンであるβエストラジオールの生体内での働きとしては血管への作用、骨代謝における機能の二つが挙げられます。βエストラジオールには心血管系に対する種々の保護的作用(血管弛緩(しかん)作用・脂質代謝改善作用・抗酸化作用など)があり、男性と比べ、閉経前の女性に動脈硬化による虚血性心血管疾患が少ないのは、βエストラジオールの抗動脈硬化作用によるものと考えられています。閉経後にはβエストラジオール分泌が著しく低下するためその保護作用を失い、女性でも虚血性心血管疾患が増えてきます。
骨粗しょう症の主な原因は女性ホルモンの低下
骨粗しょう症患者の80%以上は女性で、その主な原因は閉経後の女性ホルモン低下です。
骨密度は一定容積の骨に含まれるカルシウム・リン・マグネシウムなどのミネラル量で骨の強度を表します。女性の場合、骨密度は18歳ぐらいをピークとして40歳代半ばまでほぼ一定値を維持しますが、50歳前後から低下していきます。加齢による低下は女性ホルモンの分泌低下に加えて腸管でのカルシウム吸収の低下、カルシウム吸収を助けるビタミンDの合成能の減少などが挙げられます。
体内のカルシウムの99%は骨と歯に貯蔵されており、骨から溶け出たカルシウムが血液を介して体内の各所へ輸送され、筋肉の収縮や神経伝達などといった重要な働きに関わります。したがって、血液中のカルシウム濃度は10mg/dL程度で一定値を維持しています。
骨は壊す働きである「骨吸収」と骨を作る「骨形成」をバランスよく持ち合わせており、成長期には骨形成が骨吸収を上回ることにより骨格が大きくなっていきますが、骨粗しょう症では骨吸収が骨形成を著しく上回ります。骨吸収は骨にある破骨細胞、骨形成は骨芽細胞により行われ、女性ホルモンであるβエストラジオールは破骨細胞内のエストロゲン受容体に結合し、破骨細胞の働きを抑制します。
大豆を食べれば骨粗しょう症の予防が期待できる
イソフラボンの場合、βエストラジオールに比較すると弱いものの、エストロゲン受容体との結合能を持ちます。
閉経前の女性の血液中には十分量のβエストラジオールがあるため、大豆由来のイソフラボンはそれほど効果を発揮しませんが、閉経後にβエストラジオール濃度が低下すると、イソフラボンの効果が期待できます。
日本人の食生活では乳製品の摂取が少なく、特にカルシウムは要求量を満たしていない栄養素の一つです。そのため欧米人女性と比べて日本人女性の骨密度は低く、骨が脆いです。骨粗しょう症になると足の付け根部分にあたる大腿(だいたい)骨頸部(けいぶ)骨折が起きやすくなり、これは寝たきりの原因となりますが、日本人の骨折率は欧米人より低いことが明らかになっています。
これは「ジャパニーズ・パラドクス」と呼ばれており、その理由として畳に正座して座る、和式便所にかがむなど足腰を鍛える機会が多いということが挙げられていますが、生活様式が欧米化している現在ではやや的外れな感じがします。
日本人女性の場合、低体重で骨に負担がかかりにくいということもありますが、それにもまして重要なのが大豆摂取によるイソフラボンの効果です。閉経後、女性ホルモン分泌が激減したときにイソフラボンが女性ホルモン様活性を発揮し、破骨細胞における骨吸収を抑制していることが考えられます。
前立腺がんの予防に役立つとみられている
また、日本人男性は前立腺がんの発症率が比較的低いといわれていましたが近年は増加傾向にあり、2018(平成30)年の患者数は約9万2000人で、男性が発症するがんの第1位となっています。前立腺がんは高齢の男性が発症しやすく、日本人の高齢化と食生活の欧米化(動物性脂肪の摂取過剰との因果関係が指摘されています)がその原因といわれています。
男性でも加齢とともに女性ホルモンが減少し、男性ホルモンの比率が上昇することが原因とされていますが、女性の骨粗しょう症の場合と同様にイソフラボンの摂取が予防に役立つと考えられています。
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