🌈9)─1・E─世界文化賞ツィメルマン氏「モーツァルトは日本文化」。古墳のインスピレーション。⦅1⦆〜No.18 

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 2022年11月3日 YAHOO!JAPANニュース FNNプライムオンライン「「スター・ウオーズは交響曲」「モーツァルトは日本文化」世界文化賞ツィメルマン
 日本のエスカレーターで見た“ある光景”に感激し、東京に自宅を構えた。「スター・ウオーズは交響曲」、NYタクシードライバーとのしゃれたエピソード、ユニークでボーダーレスな音楽愛が浮かび上がる。
 【画像】世界的なピアニスト・ツィメルマン氏の貴重なロングインタビューの様子
 日本に住もう!のきっかけはエスカレーター
 Q 2003年から東京に自宅を構えています。何がきっかけで、日本にも住むようになったのですか?
 私は、生活が非常に緊迫していて、人々が非常に残忍で、互いに対立し、規範もなく競争しているような国々をいくつも見てきました。また、私の国では、実際には戦うことが不可能な権力と戦っていたため、非常に困難な時期を過ごしていました。そんなときに私は日本にやってきたのです。最初の日のことを覚えています。
 道を歩いているとエスカレーターがあり、年配の女性が少しゆっくり歩いていて、後ろの男性は明らかに急いでいるのがわかりました。でも、彼は、その女性から5メートルも離れていたのに、ストレスを与えないよう、スピードを落としたのです。驚きました。
 日本社会の雰囲気は世界では普通でない
 私は、この国に大きな敬意を抱いています。それは、今日まで変わっていません。みなさんには当たり前でも、世界では普通ではないことがあります。異なる時代や状況の国に住んでいた外の人間だけが、この日本社会の信じられない雰囲気を理解することができます。お互いを尊重し、共に生きることの素晴らしさ。私はいつもこの一員になりたいと思い、そしていつも日本から学びたいと思っていました。
 モーツアルトはもはや日本文化
 Q 日本文化からどんな影響を受けていますか?
 どのような文化のことをおっしゃっていますか? 近年、日本のヴァイオリニストの方がオーストリアの演奏者よりモーツァルトを上手に演奏しているじゃないですか。だから、これももう日本の文化です。
 私は最近、日本が誕生するずっと前の時代に作られた古墳などを見るために、奈良のある村を訪れましたが、1500年前の古い建物があり、その時代の建築家たちは太陽と雨を大切にしていました。
 そして今日、日本の建築家たちはガラス張りのまっすぐなタワーを建てています。日本での文化は一言では言い表せません。膨大な量の異なる情報があり、ほとんどすべてが異なるからです。自然に対する日本の敬意は、本当に独特です。それこそがもっとも素晴らしいこと、と私は常々思っています。
 40年同じ席 音楽が花の代わりです
 Q 日本での公演活動でとくに期待すること、意識していることはありますか?
 誰かの家に行くとき、花やワインを持参しますよね。それと同じように、私は日本に来るときは、愛する聴衆の皆さんのために、お気に入りの作品をお持ちします。というのも、この47年間、聴衆の中に同じ顔を見かけることがあり、時には40年来、同じ席に座っている人もいます。日本に来るのは、旧友のもとに帰ってきたような気がして、本当に素晴らしい気分です。あと2、3年くらいは、私の心を動かすものを日本の聴衆と分かち合いたいと願っています。
 グローバル化は音楽にとって悲劇
 Q 2020年にはベートーヴェン生誕250周年記念で、ベートーヴェンピアノ協奏曲全曲を30年ぶりに録音されました。この録音にかけた強い思いをお聞かせください。
 このベートーヴェン・イヤーには、世界中で17のベートーヴェン・コンサートツアーをやる予定でしたが、コロナ禍のためにすべて中止となりました。でも、ベートーヴェンは私が幼い頃から、特に1973年のベートーヴェンコンクール以来、親しみのある作曲家で、人格的にも尊敬していたので、何か記念をしたいと思いました。
 あの時代の音楽界は、信じられないほど面白い時代でした。シューベルトメンデルスゾーン、リスト、ショパンベートーヴェンと、実に多くの作曲家が、30年の間に、信じられないほど多くの素晴らしい音楽をさまざまな方向から書いています。
 20世紀初頭はまだグローバル化が進んでいなかったので、オーケストラの音も違っていました。ラフマニノフや、ストラヴィンスキーや、シェーンベルクがそれぞれ、同じ年に違うスタイルで書きました。そこにグローバリゼーションがやってきました。それは、音楽にも芸術にとって悲劇でした。ライナーの管楽器なのか、ウィーン・フィルの弦楽器なのか、ベルリン・フィルなのか、耳では区別がつかないほど、今はどのオーケストラも同じに聴こえます。
 「スター・ウォーズ」のエンディングは交響曲
 1982年には、ヨーロッパのほとんどの国々で、クラシック音楽が普通の学校から姿を消しました。私の息子が8歳のときに学校から帰ってきて、こう言いました。「お父さん、誰もモーツァルトのオペラやブラームスのシンフォニーを知らないんだ。ピアニストの演奏など、聞いたこともない。 どうしたらいいんだろう?」と。私が「友達は何を聴いているんだ?」と聞くと「ポップミュージックとか、スター・ウォーズとかを聴いている」との返事でした。そこで、息子の友達にショスタコーヴィチ交響曲を聞かせると「スター・ウォーズのエンディングだ!」とビックリして、コンサートにも足を運ぶようになるのです。クラシック音楽を知ってもらうのに必要なのは、そんな小さな積み重ねなのです。
 タクシードライバー小澤征爾氏との共演に招待
 小さな積み重ねのもうひとつの例は、ニューヨークで、私はカーネギーホール小澤征爾氏とラフマニノフの2番というプログラムでコンサートを行ったときのことです。私はタクシーに乗り、楽しいアフロ・アメリカンのドライバーに出会いました。
 ドライバー:「どんな仕事をしているのですか?」
 私:「ピアノを弾いています」
 ドライバー「どこのバーで?」
 私「いや、バーじゃなくて、カーネギーホールで弾いています」
 ドライバー「私はそんなところへ行かないな」
 私「どうして?」
 ドライバー:「私の音楽じゃないから」
 私「では、あなたの音楽はどんなもの?」
 すると、彼はラジオをいじくりまわして、突然、ラヴェルの「ボレロ」を聴いたのです。私は「今夜演奏するのは、まさにこれだから、奥さんを連れてコンサートに来てください」とチケットを2枚渡しました。二人は実際に会場に来てくれて、私の演奏が終わると、こう言ったのです。「本当だ、これは私の音楽だ!」すなわち、人々が音楽に触れるようにすればいいだけなのです。
 直感を信じて!
 Q コロナ禍をどう克服しようとしてきましたか?
 コンサートはすべてキャンセルになりました。しかし、私はスタジオに行き、新しい曲や楽譜を勉強しました。新しいオペラや交響曲もあるので、今、やりたいことがたくさんあります。
 いつかはコロナが終わってほしいと願っています。でも、われわれがこの2年間で学んだことが、今後につながると信じています。
 こういう困難な時代において、若い音楽家、若い世代へのアドバイスをお願いします。なぜ、この時代に限ってなのですか?素直に 自分の直感を信じることです。もしあなたが本当に音楽を愛しているならば、何かが生み出されるでしょう。それは唯一無二で、あなたの魂を描いたものです。それがコンクールで一等賞をとったり、良い評価を受けることではないかもしれません。でも、自分の直感が正しいということを信じてください。
 取材:日本美術協会世界文化賞取材班
 ツィメルマン氏は、故郷ポーランドの作曲家・シマノフスキのピアノ作品集を出したばかり。この収録は、彼が“音響の天才”と呼ぶ、友人の豊田泰久氏が設計を手がけた広島県ふくやま芸術文化ホールで行われた。今後も、日本を愛し続け、クラシック音楽の魅力を発信し続けるに違いない。
 勝川 英子
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