💖15)─1─『善き社会』をつくる人類の本質。日本人はなぜ愚かにも「お人好し」なのか?~No.59No.60No.61 

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 日本民族は漂着民の子孫で、目の前で船が難破すればムラ人総出で遭難者を助けた。
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 2021年7月号 Voice「『善き社会』をつくる人類の本質
 先祖から受け継がれた遺伝子が、友人や恋人の選択に影響を与え、社会の構造や機能をも形成する。
 ニコラス・クリスタキス  (取材・構成 大野和基)
 遺伝子に刻み込まれた『善』の性質
 ──(大野)著書『ブループリント』は、異文化間で生きる人類の類似性を示すながら、人類がどのようにして社会を創造してきたのかを、進化の視点から分析していますね。また、人間の性質を決めるのは、遺伝子に刻まれた『普遍的特徴』と、後発的に社会のなかで獲得した『文化的要素』とがあり、両者は厳密には分けられず、お互いに相関し合っていると説いています。まずあなたは、人間性の源泉にはどのような性質が備わっていると考えていますか。
 クリスタキス その質問に答えるには、一歩下がって考えてみる必要があります。多くの一般人あるいは科学者が人間の本質について考える際には、利己的や暴力的な性質、残酷さや嘘をつく性質など、人間性の悪の部分に焦点を当ててきた。他方で注目すべき人間性の善い面は無視されてきたといえるでしょう。しかしわれわれは、愛し、友情を育(はぐく)み、助け合い、相手の独自性を認めるほどの性質を備えています。そして、このような人間の善い性質は、悪い性質を上回るのです。
 私が『ブループリント』を執筆した目的は、進化生物学や人類学、考古学や遺伝学といった実証的な根拠に基づいて、われわれがどのようにして善き人間になったかを説明することでした。そしてわれわれの遺伝子が、身体の構造を形成するのと同じように、マインド(思考)や行動の在り方に影響し、社会の構造や機能さえも形成していることを証明しました。
 いま私は『社会』といいましたが、それぞれの社会によって相違点があります。誰しもが日本社会とエジプトやギリシャアメリカ社会には文化的相違点があることを認識します。その一方で、根本的な類似点を見落としてしまっている。私が重要視しているのは、表面上に現れる違いではなく、その内側に存在する『人間の共通の本質』なのです。
 では、私たち人類の遺伝子に刻まれている普遍的特徴とは何でしょうか。それを私は『社会性一式』(socialsuite)と呼んでいます。『社会性一式』には、①個人のアイデンティティをもつ、またはそれを認識する能力、②愛情、③交友、④社会的ネットワーク、⑤協力、⑥所属する集団への好意、⑦緩やかな階級制(相対的な平等主義)、⑧社会的な学習と指導、という8つの非常に重要な性質があります。これらは進化のなかで形成され、われわれの遺伝子に刻まれています。つまり、すべての人間社会がその性質を示していると捉えられます。
 異なる結果を生んだ2つの事件
 ──現代においては、社会的ネットワークが希薄化したことで、集団への好意などは芽生えにくく、むしろ孤立を好む人も存在するのではないでしょうか。遺伝子に刻まれた性質に抗(あらが)うような行動をとる人には、どのような要因があるとお考えですか。
 クリスタキス 理解すべき重要なことは、『社会性一式』は人間の本来の性質として存在するが、異なるすべての社会で現れるとはかぎらない、ということです。自然選択(自然淘汰)によって適応してきたわれわれの腎臓は、みな同じように機能します。しかし腎臓が適切に働くか、腎臓病になるか否かは人によって異なります。すなわち、どの社会に生きる人びとにも、つねに愛情があり、協力的であるわけではありません。ただし、本来備わっている遺伝子的性質によって、人間が共に生きていくことを可能にしているのも事実です。
 ……
 ──本書で紹介された興味深い事例は、難破船の事例です。どこかの島に投げ出された、異なる文化背景をもつ人たちが、強制的に新しい社会をつくらなければならなくなった場合、善い社会をつくるか否かには、何が関係しているのでしょうか。
 クリスタキス 偶然にせよ意図的にせよ、組織をつくる際に、『社会性一式』のルールに沿っている人のグループは、成功する確率が高くなります。自然の性質に逆らっていないためです。ですから、難破船の乗組員が『社会性一式』に則(のっと)って行動する能力がより高ければ、相手を認め、協力し合う社会が創出されるといえる。
 多くの難破船の事例が報告されているなか、とくにお気に入りの2つの事例があります。それらは、無作為につくりだされた完璧な実験であるといえます。それらは1984年にニュージーランドの南にある島で同時期に起きました。島の南側では、グラフトン船が難破し、5人が漂着します。彼らは2年間の生活を島で過ごし、全員が無事に生還しました。。
 一方、島の反対側のはイヴァコールド号が漂着しました。乗員25人のうち19人が漂着し、1年間生存することができましたが、最終的に生き残ったのは3人だけでした。つまり、同時期に同じ島に生存した2つのグループが、真逆の結果を生み出していたことになります。
 何がその違いを説明するのでしょうか。私の考えでは、船員たちがどれほど『社会性一式』に従ったかに拠(よ)るとみています。1つ目事例であるグラフトン船が難破した際、船長は高熱を出して、船長室で一人横になっていたそうです。船が沈没しかかっている状況のなか、残りの4人は自分の命を顧(かえり)みず、船長の命を助け出しました。この難破船物語は、みなが協力し、船長の命を救ったことからスタートしたのです。
 島においても、彼らは、民主的な投票によってリーダーを選出し、残るメンバーにはそれぞれの役割を与えました。またお互いの知恵を教え合い、代わる代わる教師や生徒になることで、緩やかな上下関係を構築しながら、実際には対等な地位を保つことで、信頼や敬意、そして結束を築いたといえます。
 もう一つの事例では、漂着した19人の船員のなかに『自分の命は自分で守れ』というスタンスが存在していました。そこではお互いが争い合い、共食いも行われていたそうです。誰かが負傷しても見捨て、メンバー全員で社会を築き上げていく姿勢を見せなかった。人間の『社会性一式』という性質が現れなかった事例だといえるでしょう。
 友選びと遺伝子
 ──あなたは、人間の友情や、友人の選択方法に関しても遺伝子的影響が」あると説いていますね。
 クリスタキス そもそもなぜ人間は友人を必要とするのでしょうか。ほかの動物と同じように人間もセックスをしますが、それは生殖のためだけではありません。加えて、セックスをせずとも他人との心を通わせ、長期的なnon-reproductive union(非生殖の繋がり)を生み出します。なかにはゾウや鯨(くじら)のように友情をもつ動物もいますが、長期的な繋がりを構築するのは非常に稀(まれ)です。
 ですから、人類が誕生したときから友情を育む種(species)であったと当然のように考えるべきではありません。どのような人を好きになり、友人に選ぶかという能力は、進化の過程でかたちづかれたのです。
 読者のなかにも、一目惚れの経験をもつ人がいるかもしれません。人類は5~10%の人は一目惚れを経験しています。なぜすばやく相手を選ぶ能力を与えられているのかを、生物進化の視点から説明することは難しいことではありません。選ぶ相手によって、自分の家系の継続が決定されるためです。多くの動物が、どの相手を選ぶかは遺伝子によって決められていますが、同じことが人間にも当てはまります。
 逆に、初対面で『なんだか気に食わない』と感じてしまう相手もいますね。多くの情報がないまま、この人は信用できるか、自分と波長が合うかなどをすぐに判断できるのは、自然選択(淘汰)のなかで培われた能力だといえます。
 ……私たちの祖先が、種の生存のためにどういった相手を選び、適切な社会ネットワークを構築してきたかが、子孫にも遺伝していくと考えられます。もちろん、育った環境や学校など、遺伝子以外の文化的な要因も、友人を選ぶ際に大きな影響を及ぼしているのはいうまでもありません。
 ──無意識のうちに、誰であれば自分の所属する社会を存続させられるかを考慮しているわけですね。
 クリスタキス 社会生活を営むためには、われわれが個人として区別される必要があります。社会生活をする際に、自分にとって誰が危険な存在かを知る必要がある。そのため、人類の進化のなかで異なる顔をもつようになり、その違いを認識する『認知能力』が備わったのです。実際に脳の大部分は、個々の異なるアイデンティティを認識することに『仕事』を割(さ)いています。
 ……
 たとえば知っている人が亡くなった場合は悲しみが、知らない人の場合は悲しみません。そこには個人の独自性が関係しています。独自性がなければお互いの共通の属性をみつけにくいため、相手に共感を抱くのも難しい。そのため、人びとの独自性と個別性を強調し、個人的な特定の関係に基づいて友情を深める豊かな土壌を提供している社会ほど、人間の遺伝子に備わっている『共通』の属性が出現できるようになるのです。
 ──現在、世界では分断が進んでおり、とくにアメリカではいままで以上にそれが深刻化しているというます。生物進化的視点でみると、人類の分断にはどのような要因があるとお考えですか。
 クリスタキス 『内集団バイアス』が関係しています。これは、われわれはどんな特色をもったグループであれ、自分が属するグループのメンバーを好む傾向になるという心理です。そして、集団の結束をより強固にする方法は、『共通の敵』をもつことです。それは必ずしもべつのグループの人である必要はなく、大災害の場合もあります。個々の日本人のなかで政治的な相違があったとしても、津波がやってきたときは、誰もその相違を考えませんね。それは津波という共通の敵があるからです。
 ……
 何十万年ものあいだ、われわれは狩猟採取民でした。人びとは小さなグループを形成していて、国民国家というかたちは存在していなくとも、グループのメンバーと一緒に生き延びるという願望を育成してきたのです。そして、現代にもその特徴が現れています。たとえば、狩猟が上手くいかず、食料が乏しい状況に置かれた人類は、『より多くの栄養を蓄(たくわ)えなければならない』という生理機能が発達した。一方で、現代社会では食料が有り余っており、その結果、肥満が蔓延しています。欲しいものが何でも買える食料品店がない時代に進化したわれわれの肉体は、カロリーをいつでも補(おぎな)える現代には適応しなくなっているのです。同様に、古代の進化の果てに培ったバイアスや偏見という特性も、現代では有利に働かなくなってしまったといえるでしょう。
 生物にとって適切なシステム
 ──どの国においても、民主主義や社会主義といった国家システムを所有しています。とくにアメリカは民主主義がもっとも最適なシステムであると考えていますね。生物進化の視点からみるといかがでしょうか。
 クリスタキス アメリカ合衆国の建国の父が憲法を立案した際、『社会性一式』の要素が多く含まれていました。憲法で保障される権利の1つには 『集会の自由』がありますね。ここには、自分が好きな人を選んで集まっていいという意味が込められており、国は市民の社会的交流について一切の関与をせず、各々が遺伝子や文化的背景によって選択した友人を選んでよい。これは私が『ブループリント』の『友情の進化』について述べた原理と同じです。
 ほかには『言論の自由』も保障されています。人は互いに何をいうかについて、国が規制するべきではない。これは『社会性一式』の進化の要素の一つ、互いのアイデンティティを認め、学習と指導をし合う要素に関係しています。互いに知恵を共有するように進化した人類が自由に言論し合うことは、人間の本質に合致しているということです。流れに逆らって泳ぐのではなく、流れに従ったほうがよりスムーズに泳げます。社会も同様にできているのです。
 民主主義は、進化の性質に沿って泳ぐようなものです。一方で独裁政治や全体主義はその流れに沿って泳がないことです。毛沢東スターリンの政治は、アリに向かって、ミツバチの巣をつくるように命令するようなものでしょう。ですから、生物の性質に逆らう政治には、限界があります。そういった意味では民主主義は最善のシステムだと思います。
 ──あなたは、人間の社会を説明するときに、進化的な力よりも歴史的な力のほうが突出しているとみなすことには重大な危うさがある、と説いています。それはなぜでしょうか。
 クリスタキス 人類の物語がもろくなってしまうためです。生物の本質よりも、あとから築き上げた歴史的な力のほうが上だと思えば、諦めが生じて、よい社会秩序は不自然なのもだとまで思ってしまうかもしれません。
 私の主張は、人類のポジティブな面を説明するには、歴史的な力に頼る必要はないということです。たしかに歴史が作用して、人間ないしは社会の在り方が決定されたこともあります。しかし、それよりもはるかに長期的な、何十万年という進化の過程のなかで、人類は善い社会をつくる能力を与えられてきたのです。繰り返すようですが、民主主義社会に生物進化において論理的根拠が存在しています。ですから、見通しうる将来において、われわれ本来の性質に沿う民主主義のシステムが没落することは当分のあいだないでしょう。」
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ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(上下合本版) (NewsPicksパブリッシング)
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