🌈12)─1─文化がヒトを進化させる。〜No.23 

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 2019年8月24日 朝日新聞「読書
 『文化がヒトを進化させる』 ジョセフ・ヘンリック〈著〉 今西康子訳
 評・長谷川眞理子
 集団の知識共有し、まねる能力
 ヒトという動物は、確かに優れている。この地球上のほとんどに分布し、石油などエネルギー源を自ら持ち、各地の生態系を改変している。では、一人の人間はどのくらい賢いのだろう?
 私はと言えば、電車の運転はできないし、コンピューターを使ってはいるものの、たいしてプログラミングなどできない。最近は、車が壊れたって自分で直すなんて不可能だ。人間全体としては、もっとも優れた生物という評判を謳歌(おうか)しているのだろうが、私が一人で無人島に放り出されたら、ほとんど何もできない。本書には、こんな例が数多く収録されている。
 ヒトは、強力な牙も爪もなく、か弱い存在だが、認知的にも、この瞬間に見たことをどれほど覚えているか、それに基づいてどれほど素早く、ある特定の作業ができるか、というような能力を個別に測ると、実際、大学生よりもチンパンジーの方が優れている。
 この個人としての無力さと、ヒト集団全体としての圧倒的な力との差は何なのだろう?それは、文化の力である。ヒトが世界を制覇できるのは、文化を持っているからだ、という意見は、かなり古くから提唱されてきた。しかし、文化とはいったい何で、どうしてこれほどヒトを強力にできるのだろう?
 文化とは、ある社会集団の構成員が共有している知識の総体である。食物をどのように獲得するか、個人間の争いをどのようにして仲裁するか、死後の世界はどんなものだと思うか、何をしてはいけないか、どんな服装をするべきか、すべては、文化が決めている。それは、長い時間をかけて、その集団全体が蓄積し、改良してきた知恵の集大成である。だから門外漢が急によその土地に行っても生きられないのだ。
 では、なぜヒトだけがこんな文化を持つことができるのだろう?
 文化を持つために必要な能力とは何か?ここで初めて、文化というものを獲得し、それを改訂を加え、さらに次世代に伝達していくために必要な、ヒト固有の生物学的本能の話になる。そう、赤ちゃんの真っ白な心に文化が何かを描き込んでいくと言っても、描き込めるための本能が赤ちゃんには必要なのだ。それは他者の表情や行為を観察し、お手本となる人のやり方をまねようとする本能だ。
 だから、ヒトの優秀さのもとを解明しようとすれば、ヒトがどのように他者の知識を共有し、他者から学ぶのかの詳細を解明せねばならない。ヒトの行動や心理の説明としては、長らく、遺伝か環境かという、いわば不毛な論争が続いていた。本書は、私たちが今、この論争に最終的な決着をつけることができる可能性を示している。

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